韓国ミュージカル☆ライフ

韓国ミュージカルを楽しみつくすブログ

ミュージカル『黎明の瞳』(2019年、韓国、初演)見て来たよ(2)-もう少し「現代的」スパイスが必要?

来年(2020年1月23日~2月23日まで世宗文化会館)の再演を目前に控えたミュージカル『黎明の瞳』。初演時の感想の続きが発掘されましたので、忘れないうちに公開しておくことといたします。韓国の創作ミュージカル『黎明の瞳(여명의 눈동자)』初演は、2019年3月1日~4月14日、Dキューブアートセンターにて上演されました。日本植民地期から朝鮮戦争までの韓国近現代史をガッツリ盛り込んだ、ちょっと盛り込みすぎ?なミュージカル。すっかり存在を忘れていた感想の第二段をここに!

f:id:pokos:20190601202814g:plain

(とりあえずこの、「鉄線越しの別れ」シーンは超名場面とされているので、舞台上に再現すべく、力はいってました)

苦悩は誰が背負うのか

 さて、ミュージカル『黎明の瞳』は真正面から真っ向勝負で近現代史を描くぜ!という意気込みに満ちておりました。1幕が慰安所での出来事と日本軍の横暴。2幕が済州島4・3事件を中心に扱う構成となっており、ドラマ版よりもこの二つの事件がフォーカスされています。ドラマでは、デチが慰安所から逃亡したあと、インパール作戦に参加するは、ジャングルで生蛇食べるは、八路軍に拾われるは、馬賊になるは、ソ連軍に連れてかれて朝鮮人民軍にはいるは、南側に舞い戻るは・・・という「えええーっ!そこでそう来るかっ」と盛りだくさんすぎるエピソードに、じっくり思考するというよりは、不謹慎と思いつつもおもわずツッコミをいれずにいられない。しかし、ミュージカルでは、ヨオクがスパイ容疑を掛けられて引き出された裁判の場を物語進行の軸として用いていることもあり、彼女の経験が物語の中心となっています。そのため、デチやハリムの激動話はあまり語られないのです(なので蛇は食べなかった)。

www.youtube.comMBCの「ハッピータイム」でドラマのあらすじが紹介されています。これを見るだけでおなか一杯に・・)

 そのため、韓国の近現代史の過酷さや苦悩はもっぱらヨオクの体験、つまり〈女性〉が背負ってきた苦悩として描かれることになります。もちろん、デチやハリムも苦悩の歌を歌い上げ、絶望を表現してはいるのですが。苦難の近現代史が〈女性の苦悩〉を軸に描かれることで、「守るべきでありながら、守れなかった弱きモノへの哀悼」というイメージがクローズアップされてしまい、なんだかマッチョなノスタルジーが鼻についてしまいました。4・3事件の描き方にしても、済州は、異邦人がひと時やってきてかき回して去っていく、そのあとは「他人事」な場所のようにも見えて。おそらく制作者が力をいれて描きたかったことはもっと別にあると思われるのですが、昨今の韓国ミュージカル・演劇界のラディカルぶりをみると、今回は設定段階でちょっと古臭いジェンダー観(韓国演劇界比ですが)を用いてしまったがゆえに、近現代史の語りにおける問題含みの部分までそのまま持ち越してしまったように感じました。むむ、歴史を描くって難しいな・・。

Dキューブの舞台上に観客席が出現

 今回のミュージカル『黎明の瞳』では、舞台上の両サイドに観客席が設置され、かなりの段数の客席がつまれていたのですが。演出家によると、開幕が迫る中で突如のひらめき(?)により、この舞台構成に切り替えたそうで。それにともない大幅な演出プランや照明プランの変更がおこなわれ(予算が切り詰められ、開幕が遅れ・・)たとのことでした。確かに、舞台上の席の観客からは俳優さんたちの演技が近くで見られてよかったと思われるのですが。が、通常座席の客席からは舞台がとても遠く感じられました。段差のある舞台を見上げる観客と、その舞台を見下ろす形で座る観客、視線の角度が異なる双方を意識した演出や演技というのはかなり難しいのでは・・と思わされたりもして。実際、前後左右にプラスして、上下方向をも考慮せねばならない舞台では、俳優さんたちも演技しにくそうに見えました。舞台奥のスクリーンは通常座席からはかなり遠く、ハズキルーペ必帯状態であったことは前回にも触れた通りでございます。演出に関して言うと、ストーリー同様、もう一歩何とかならんかったのか・・と、残念に思う部分が残りました。

アンサンブルのパワー

 と、ストーリーと演出にぐだぐだと文句をつけてまいりましたが。しかしこの作品がミュージカルとして魅力がなかったわけではありません。それはひとえにアンサンブルのパワーにあったかな、と思います(いや、メインキャラクターの皆さまも熱演で素敵でしたが)。「歴史」を表現する上で、主人公たちをとりまく「ひとびと」をいかに描いていくかが重要になると考えられたからでしょうか。アンサンブルが歌い、踊るシーンがかなり入っており「ドラマの盛りだくさん感がここに現れている・・」と圧を感じるほど。幕が開いたとたんに超ハイテンションの慟哭やシャウトの連続で、こ、このままずっと続くの?まじで?このまま・・?と手に汗を握ったのも事実。観劇後の殴り書きメモには「土田世紀の『編集王』か、尾崎南の『絶愛』かと思った・・」との謎の言葉を書き連ねていた自分を発見。でもなんか、そんな感じの作品なんですよ、これ。

 

※ミュージカル『黎明の瞳』(2019年、韓国、初演)見て来たよ(1)はこちら