韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル『メイサの歌(메이사의 노래)』(配信)見てみたよー希望の歌を胸に光り輝く君へ

韓国陸軍が主催・制作する、いわゆる軍ミュージカル『メイサの歌』が2021年10月15日から17日までオンラインで有料配信されました。本公演は10月22日から11月27日まで、ソウルオリンピック公園ウリ金融アートホールにて上演予定でございます。作・演出イ・ジナ、音楽総監督キム・ムンジョン、作曲Woody Parkという韓ミュファンにもうれしい制作陣が、陸・海・空軍と海兵隊所属者対象に行った公開オーディションをへてえらばれたメンバーで送る本作品!韓国へとべない昨今、配信でみるしかない!視聴したメンバーはこちら。

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ラマン:パク・チャニョル

ヨン・ジュンソク:キム・ミョンス

ユン・ソノ:ムン・ヨンソク

司令官:Brad Little

ファハド:キム・ジュアン

K-PPOオーディションと戦地の記憶が交錯する

『メイサの歌』はイ・ジナ作品風味がきいた陸軍ミュージカルだな!というのが最初に浮かび、そして最後にのこったのでありました(最後の歌が「赤い夕焼け」だし)。

物語は架空の国である戦地カムルに育った少年ラマンと、国連軍としてカムルを訪れた韓国陸軍の兵士たちの交流パートと、青年になったラマンがK-POPアイドルになるためにオーディション番組に出演するパートという二つの時間、へだたった空間をまじえて進んでいくのですが。これ、イ・ジナ先生のめちゃ得意なやつやん!とおもったわけです。というか、私の好きな演出がたくさん見られるのでは、と抱いた期待にめちゃめちゃ応えてもらえるミュージカルでした。

たとえば、彼女が演出をした『西便制』や『光化門恋歌』などの、過去と現在が交錯する物語を描く作品では、舞台の奥行を十分につかいながら、重層的にシーンを重ねて描いていく演出がとても美しい。いくつものシーンがかすかに透けて見える、レイヤー化されたシーンを通して、現在と過去のつながり、過去がたえまなく現在からよびおこされていくという、人間の記憶のありようが可視化されていくのです。今回の『メイサの歌』も、K-POPオーディションを受けるラマンが、子どもの頃の記憶にある故郷へと意識を飛ばす瞬間、舞台の奥から子どもの頃の自分の姿が駆け出してきて、前後を入れ替えながら場面が転換していくシーン、しょっぱなからこの演出が堪能でき、観客はラマンの心とともにカムルへと旅立ったと思われる。

陸軍ミュージカルという枠組みを問う?

 さて、最近公開された陸軍ミュージカルは『新興武官学校』や『帰還』といった歴史モノであったこともあり、祖国や愛する人のために戦うといったメッセージが強く押し出され、軍隊の意義とむすびつけられていくような部分が少なくありませんでした。もちろんこうしたメッセージをはじけるエンターテイメント性でもって観客を違う世界線に連れて行ってくれたあたり、さすがのイ・フィジュン/パク・ジョンアだったわけですが。ともあれ、どのような物語や音楽をつくるにせよ演出をするにせよ、軍がつくるミュージカルという枠組みがあるなかで、エンターテインメントをいかに位置付けるののか(単なるプロパガンダにならないか)は、アーティストとして考えるべきポイントなのは確かでしょう。『メイサの歌』は、芸術の力がどのような境遇の人にも、どんな状況にあっても必要なのだというメッセージを打ち出すものですが、もちろんその力はだれかが「利用」することもできる。本作品の中では登場人物に、歌や踊りは個々人にとっての希望になったとしても、それが権力者たちに利用される可能性もあるのでは?と問わせるなど、陸軍ミュージカルという枠組み自体を意識させるような瞬間も垣間見られたように思います。こういう部分に、K-エンタメと政治の緊張関係、政治的であることを単に否定するだけで、逆に取り込まれていても無関心でいてしまうような状態とは真逆の、丁々発止の関係性が垣間見える様でもありました。

陸軍ミュージカルはどこへいくのかな

 軍ミュージカルはこれまでも、作るときに「〇〇記念!」みたいなスローガンをかかげてきたわけですが(一応そういう名目がいるんでしょうね・・)。今回は国連加入30周年記念!という位置づけで、だからこそUN軍の話だったのでありましょう。としたら今後は何記念で作られる可能性があるのか、気になるところ。

そもそも軍ミュージカルの歴史はこちらの記事に詳しいのですが、2008年に制作された『マイン(MINE)』で、非武装地帯で地雷に地雷爆発事故にあい、足を失った実在の中佐の物語をもとにした作品でした。その後、韓国ミュージカル協会の協力をえて制作されるようになり、2010年に『生命の航海』、2013年『プロミス』、2018年『新興武官学校』、2020年『帰還』と続き、今回の『メイサの歌』へとつながるのですが。果たして次回、いつぐらいにどんなテーマで(どんな記念?で)制作されることになるのか。なんだかんだいいながら、この瞬間しか成立しえない出演者だからこそ、ついつい見てしまう軍ミュージカル。次回作がいまから楽しみでもあります。