韓国ミュージカル☆ライフ

韓国ミュージカルを楽しみつくすブログ

ミュージカル『種の起源(종의기원)』(2022-3年、韓国、初演)見てきたよー小説の語りをいかにミュージカル化できるか

韓国創作ミュージカル『種の起源』が2022年12月18日~2023年3月5日まで、ドリームアートセンター1館にて上演されました。韓国のベストセラー小説家、チョン・ユジョンのサイコミステリを原作とする本作品。「悪の三部作」と呼ばれるシリーズ小説完結編のミュージカル化でございます。見てきたキャストはこちら!

赤ハン・ユジン:パク・ギュウォン

青ハン・ユジン:ペク・ドンヒョン

キム・ヘジン:パク・ソニョン

キム・ジウォン(母)/キム・ヘウォン(叔母):ジュア

悪はいかにして発生するか?

 主人公ハン・ユジンは水泳選手として競技を続けることを渇望しているのですが、叔母に処方された薬と母の強い反対でそれを断念せざるを得ない状態にあります。彼は幼い頃家族旅行で海へいき、父と兄を事故で失っており、それ以来、母と叔母はユジンを監視しているのです。母と叔母の抑圧に耐え兼ねこっそり薬を飲まずにやりすごしたユジンは、目覚めるとそこに惨殺された母の死体を見つけるのでした。じゃじゃーん。母を殺したのは誰なのか。養子として家庭に迎え入れられともに育った義兄ヘジンに心配されながら、目の前にあらわれるもう一人のユジン(赤ユジン)のささやきにいら立つユジンなのですが…。

 まあ、ここまで聞くとわかる人にはわかるのではないでしょうか。そうです。ユジンが悪い奴です。サイコパスです。最後には人類超越するとか言っちゃいます。しかも海外進出します。以上です…。

 今回、原作を読まずにチャレンジしてみたのですが、観劇後、ちゅ、厨二病?と叫ばずにはいられませんでした。おばちゃんにはもう、特別な自分に気づく物語とかちょっときついんやわ、と思わざるをえなかった。なんだろう。体調かな。3年ぶり大学路一発目がこれだったのがよくなかったのかもしれません。韓ミュ免疫が失われているのかもしれない。キャストは悪くないはずなのに…。というわけで『種の起源』に激しい拒否反応を感じたのはなぜだったのか。そのあたりについてちょっと考えてみたい。

二人のユジン、その効果とは

 本作では主人公ハン・ユジンは二人一役で描かれます。チケットサイトの登場人物紹介ページでは、ハン・ユジン役が6人いるので、一見「まさか6人で回すの?」とおののきますが、背景が赤と青に分かれている点がミソ。赤背景と青背景のユジンはそれぞれ1人の人物の二つの内面をそれぞれ担ってでてきます。「悪」の声として登場するのが「赤ユジン」、この声におびえつつ導かれるのが「青ユジン」なのですが、ほかの登場人物に見えているのは「青ユジン」だけ(そして最後に・・)という設定です。

 しかし、この作品には、ユジンにとってもう一人重要(そう)な人物が登場します。幼いころ亡くなった兄と瓜二つという理由で、養子にもらわれてきた義兄キム・ヘジン。ヘジンはユジンを信頼や愛情に満ちた「この世界」につなぎとめる存在なようなのですが…。ユジンが2人に分裂しているためか、ヘジンとユジンの関係がいまいちぼんやりしてしまいます。つか、ヘジンが単なるおせっかいな近所の子くらいの重量しかない。本人の内面の葛藤、母・叔母との葛藤、ヘジンとの葛藤と、葛藤がてんこ盛りすぎなのと、青ユジンにとってそれらが抑圧でしかないがために、最初から赤ユジン圧倒的優勢「もう勝負はきまった」感が強い。だからでしょうか、最後に青ユジンが過去の記憶を取り戻し、赤ユジンと一体化した(飲み込まれた?)時には、むしろ己に酔っているだけに見えてしまった。残念。

 韓国の創作ミュージカルには、最初と最後でキャラクターの見え方が変わる(それを俳優の入れ替えで表現する)という演出がよくありますが(『ザ・キャッスル』など)、これは最初と最後で観客から見える登場人物の性格が大きく変貌してしまっており、またその過程が納得のいくものであるからこそ面白みを発揮するわけです。そこでは、キャラクターに共感できるかどうかではなく、変化の過程にどのような人間関係や社会背景が描きこまれているか、人物が置かれた文脈の変化がどれほど大きいかが面白さを左右するのではなかろうか、と。その過程を、主人公の内面変化(を示す2ユジンの対話)のみで押し切ろうとする本作は、「あああああ、なんか、みてて恥ずかしい…」となってしまうようなきがするわけでして。もにゃもにゃ。

原作小説を攻めるべきかもしれない

 厨二?と叫んだ私に、ともに見た友人は、とりあえず小説は面白いから読んでみろと繰り返しました。原作小説は1人称で描かれているらしいので、読者はミュージカルとは異なる視点をとることになるのでしょう。少なくともこっぱずかしいきもちになることはないから安心せよとも言われました(むしろいやな気分になるだろうと)。

 でもMDで販売していた原作小説は売り切れ。探してみたら日本語版が出てますね。

さらに「七年の夜」も出てるのね。これ、映画にもなったんですよね。

読んでみて、感想を追記できればと思います。ミュージカルの見え方が変わるのかもしれません。