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ミュージカル『メアリー・シェリー』(配信)みてみたよ!―『フランケンシュタイン』に飛躍する瞬間を描く?

ミュージカル『メアリー・シェリー』が2021年8月7日~10月31日まで、KT&G サンサンマダンテチアートホールにて、1幕100分で上演中。これが2021年9月10日、14日~16日にかけてネイバーTVにて有料配信されました。ミュージカル『フランケンシュタイン』の作曲を担当したイ・ソンジュンの音楽、『わたしとナターシャと白い驢馬』のパク・ヘリムの脚本で、『ママ・ドント・クライ』をはじめ『影を売った男』『HOPE』を手掛けたオルピナ演出とあって、期待はむくむく育っておりました、が!ともあれ見た配信キャストはこちら!

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メアリー:チェ・ヨヌ

ポリドリ:ソン・ウォングン

パーシー:キ・セジュン

バイロン:アン・チャンヨン

クレア:チョン・ガヒ

ミュージカル『バイロン』状態な前半戦

本作品はメアリー・シェリーが小説『フランケンシュタイン』の着想をえてから、書籍として世に送り出すまでの物語でございます。舞台はバイロンの別荘、メアリーと夫のパーシー、義妹のクレア、のちに『吸血鬼』を書くポリドリとバイロンのウェイウェイした感じの宴会から始まるのですが、メアリーは子どもをなくした悲しみから鬱々状態だし、バイロンは薬中だし、ポリドリとバイロン、パーシーとクレアの関係はなんだかおもわせぶりにえがかれています。特にミュージカルの前半50分くらいは、バイロンがラリラリして歌い上げまくり、ポリドリに流し目する感じでカラんではパワハラし、その間にメアリーとパーシーが駆け落ちに至った理由が挿入されるという、なんか行き詰まり感ただようまま誰に注目したらいいのかよくわかんないよ!てか、こりゃミュージカル『バイロン』か?みたいな時間がながれるのでございます。

おそらくバイロンインパクトに目くらまされ、ほかの人物の言動がほぼ頭に入ってこない感があるのですが、ここで(多分)大事なのは、メアリーとポリドリが自分の中の空虚さや行き場のない欲望を自覚し、それを持て余す、という部分です。これは後半において、彼らが自覚する自分の中の「怪物」と名付けられるもやもやなのですが、メアリーにはパーシーとの関係において、ポリドリにはバイロンとの関係においてそれが芽生える様子が描かれます。各関係性においてそのアイデンティティが不安にさらされること、死と生といった相反する二つの衝動から生まれるものが「怪物」なのだという話につながっていく、物語の主軸なのですが・・。もう、バイロンのウェイが気になっていまいちそっちが記憶にのこらない。後半にめっちゃ重要だったんでは?あのキーワード、みたいな感じで後悔する展開です。バイロンよ・・。落ち着け・・(とおもっている私が落ち着くべき?)。

フランケンシュタイン博士としてのパーシー

さて、前半は不倫男としてクズぶりを発揮し、後半は妻の手柄を自分のものにする剽窃野郎として描かれるトホホなメアリーの夫、パーシー・シェリー。後半でメアリーが自分の中の不穏なものに「怪物」という名を与えたのち、パーシーの自分勝手さや無神経な態度への反発として「怪物」に相対するビクター・フランケンシュタイン博士を生み出していきます。これも一つの見どころになる・・はずなのですが。が。前半のパーシーの描き方が、単なるスレギ状態なので、いまいちビクターに転生できない感がただよってしまいます。韓国ミュージカルファンたちは、韓国ミュージカルの『フランケンシュタイン』におけるビクターを知ってしまっているわけですから、あのビクターにリンクする博士をどうしても求めてしまう、というのもあるでしょう(まあ、あのビクターも、考えてみればたいがいスレギですが)。なんかソン・ウォングンがいい感じで「怪物」ってるのに!もう一押しこないかね!と思わずにはいられません。

どっちのわくわくを書くのか

さて、メアリーの義妹で、バイロンの愛人であったクレアはまあまあ重要な役どころだと思うのですが、いまいちパッとしません。パーシーとメアリーの関係もぎすぎすしている。後半にちらっとクレアとメアリーの信頼関係、メアリーと母の関係が描かれるのですが、あまりにも唐突な感じがてしまいます。バイロンとポリドリの怪しげな香りはかなり描きこんであるのに、女性たちの関係性は結構薄い。とはいえ、バイロンとポリドリの話が後半で深められるかというと、そうでもない。なので、どっちにしてもわくわく感がない・・食い足りない…となってしまうのでした。どっちかの要素を大盛でお願いいたします!

とはいえ、音楽は『フランケンシュタイン』風味の部分があったり、ライトの使い方、影をうまくつかった演出など、めちゃクオリティの高い作品でもありました。つめこみ上等!みたいな前半の展開をもうすこし解きほぐし、後半の内容をメインに展開してくれたらもっと面白いに違いない、という予感もし、再演以降の変化に期待したいと思うのでありました。

てか、そもそも『フランケンシュタイン』や『吸血鬼』の着想はバイロンの別荘でおこなった百物語みたいなところで生まれた、と伝え聞くのですが、あの人たち、みんなで怪談とかしてないの、なんで?