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韓国ミュージカル『 HOPE-読まれない本と読まれない人生』(2019年、韓国、初演)見て来たよ―フランツ・カフカの遺稿をめぐる、実際の裁判を基に書かれたミュージカル

韓国の創作ミュージカル『HOPE-読まれない本と読まれない人生』が2019年3月28日~5月26日までドゥサンアートセンターにて上演中。カフカの遺稿の所有権をめぐりイスラエル図書館とその保管者の間で実際に起こった係争事件をヒントに書かれた本作品。過酷な時代の経験を経ていかに自分の人生に意味を見出すかを問う、老女ヒロインとイケメン(?)原稿擬人化たんが繰り広げる再生の物語。見て来たキャストはこちら!

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 ホープ:チャ・ジヨン

K:チャン・ジフ

マリー:イ・ハナ

過去のホープ:チャ・エリヤ

ベルト:キム・スンテク

カデル:イ・スンホン

実在の事件に着想を得た物語

本作品は2009年から16年まで、フランツ・カフカの遺稿の所有権をめぐって、イスラエル国立図書館とその保管者との間で争われた裁判を土台に書かれています。

(裁判の経緯をまとめた記事は以下を参照)

www.afpbb.comカフカが友人ブロート氏に託した、原稿を焼却してほしいという遺言。その言葉を実行できず、原稿を残したこと。残された原稿はブロート氏の秘書のホフェ氏の手に渡り、そしてその娘が「贈り物」としてそれを受け取り保管していたという点。ホフェ氏らはその一部を売却して利益を得たことがあった点。そしてブロート氏は、遺言として原稿の公共機関への寄贈を指示していたこと。ミュージカルは、一見保管者のエゴがこの裁判を引き起こしたかのように見えるこれらの事実に、別の解釈を与えていきます。「贈り物」として原稿を受け取ったという彼女らの主張に注目しつつ、お金のためという単純でわかりやすく見える理由を超えた「あるモノへの執着」の背景へと想像をひろげていく。カフカの遺稿は文化財であり人類の財産であるべきという「今現在においては至極まっとう」に聞こえる主張が、あまりに過酷な歴史的出来事によって、自らの存在価値を見出す事が困難だった人々には、時として人生を再度奪われることに等しく感じられるのでは?という問いは、今この時点の「正義」がどれだけの人を傷つける可能性を持っているのかに目を開かせてくれるのです。と同時に、それでも人は、いかなるトラウマを抱えていても、今を生きなければならないのだとメッセージする。だからこそ、こんなに重いもろもろを引き継ぎつつも、最後には救いと希望がやってくる(ようなきがする)作品に仕上がっているのだと思います。

『HOPE』はきっと異世界に転生しない

とりあえずミュージカル『HOPE』は、これでもかという暗闇が続き、最後に絶望に突き落とされた後に、ホントにぎりっつぎりのラインでかすかな希望がやって来る、という作品なので、物語的には結構ストレスフルでツライ作品だといえましょう。ある記事が、近年若者に好まれる小説のジャンルとして「異世界転生」が受ける理由を考察しているのですが、これらのジャンルでは「読者にストレスを与えない」ことが至上命題とされているとしています。

gendai.ismedia.jp

こうした「若者」(というカテゴリーもえらくざっくりしたものだと思いますが)をとりまく日本の物語環境のマ反対にあるのが『HOPE』という作品かと思われる。しかも、ダーク犯罪系のように非日常であるがゆえに、観客が自分をそこで呈示される「現実」の外部に置くことができるわけでもなく、歴史の連続性の中に位置付けられる「現実感」と「逃れられないストレス」、そして「無力感」が襲ってくるのです。ひえー。

でもミュージカル『HOPE』には希望がある

と、ここまで読まれた方は『HOPE』あかんやん!重いんか、暗いんか、やっぱりやめよう。と思われたかもしれません(関西弁でないとしても)。ちょっとお待ちくださいませ。そう、これだけツライ物語を設定しているにもかかわらず、観客はこの作品を見続けることができる、と言う点に注目していただきたい。これ、重要なのは原稿の擬人化キャラであるKの存在ではなかろうか。この「擬人化たん」Kは、ホープの日常に寄り添い、その過去の回想をいつも見守り、彼女の戦いを応援してくれます。ホープの住むテントの中の「机たん」なんかともお友達。め、めちゃなごみます。Kはホープにとってのイマジナリー・フレンドであり、彼女の精神をぎりぎり支えている。とともに、観客の精神も支えてくれるのです。Kのはげまし、癒しによって、観客はホープとともになんとか裁判を乗り越え、過去の回想を共にし、そして最後に彼のもとを離れ、ホープとともに希望を抱けるようになるのです。とはいえ、私ならKにずっと一緒にいてほしいけどな!とも思ってしまいましたが。

(終わらなかったので、続く!)