韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル「ミッドナイト」(2018-9、韓国)見て来たよ-後味悪い!がほめ言葉になるミュージカル

ミュージカル「ミッドナイト」が2018年12月4日~2019年2月10日まで大学路、デミョン文化工場2館にて上演中。アゼルバイジャンの劇作家Elchinの戯曲「Citizens of Hell」をTimothy Knapman とLaurence Mark Wytheがミュージカル化したものを、キム・ジホ演出とハン・ジアン作家が韓国版としてローカライズ(潤色)した作品。2017年のアジア初演となった韓国版が好評を博し、今回の再演とあいないなりました。12月31日の新年を迎える数分前の物語。暗鬱たる気分で新年を迎えること間違いなしの、手に汗握るミュージカル。でも鑑賞時の高揚感は半端なし!見て来たキャストはこちら。

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 ビジター:コ・サンホ

男:ホン・スンアン

女:キム・リ

プレイヤー:キム・ソニョン、キム・サラ、シン・ジグク、イ・ナレ

※プレーヤーは時にNKVD(内務人民委員部)、罪人、革命家、犠牲者等を演じるアクターミュージシャン

ピアニスト:オ・ソンミン

1937年12月31日の物語(ネタバレにならない程度に)

舞台は1937年末のソビエト連邦スターリンの大粛清が最盛期を迎える1937年の暮れ、もうすぐ新年になる直前の一瞬に、党幹部の地位を与えられた若い弁護士の男とその妻の元にNKVDが訪れる。隣人は密告を受け彼らに連れ去られたばかり。家を訪問した友人もまた、密告をうけ拷問の末亡くなったという。二人はノックの音におびえ、闇市で購入したレコードを隠す。夫は自分の党における地位を盤石なものとするために「努力」したのだから大丈夫だ、というのだが・・。彼らの努力。ささやかな幸せを守るために「仕方なく」選んだこと、それこそが「悪魔」さえも疲れさせるような悪なのだった。――ということで、隔靴掻痒なあらずじではございますが・・。どこまで書くか難しいところです。夫婦の「仕方のない」選択は、現在の私たちの社会においても偏在する「仕方のない」ことに通ずる。自分の幸せを守るために「仕方なく」、大きな悪に加担してしまうという構図は、スターリン時代に明確な形であらわれたにすぎず、今の日本にも、韓国社会にもある。そんな風に考えさせるミュージカルです。緊張感あふれる音楽と演技に金縛りになること間違いなし!

 演奏者も演技する凝縮された舞台

ミュージカル「ミッドナイト」はプレイヤーという謎のジャンルの配役がありますが。彼らは舞台上で衣装をつけて劇中の音楽を演奏し、時に物語中のさまざまな登場人物に扮して演技をします。ピアニスト以外は全員何らかのシーンに登場。劇の最初のシーンでは「ビジター」役の俳優が客席から現れ、音楽のある劇場空間からお話が始まります。また、最後に登場人物が導かれる「音楽はある・・・地獄」も一つのお話として舞台上の物語が閉じたのち、演奏者たちが舞台上に残ることで、そこはいまここの現実世界とつながっている・・と感じさせるのです。後味わる!(ほめ言葉です)。どんな雰囲気なの?と思われた方は、以下のハイライト映像をのぞいてみてください。

www.youtube.com(2018年プレスコール、オープニング部分で歌われる「その日が訪れた」。「ノックノックノック!」のフレーズがカッコいい)

www.youtube.com(2018年公演ハイライト1)

www.youtube.com(2018年公演ハイライト2)

 おまけ 

ミュージカル「ミッドナイト」の初演には、2018-19年シーズン「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」の新アルヴィンとしてキャスティングされたチョン・ウォニョン(정원영)さんがビジターとしてキャスティングされておりました。この転身ぶり、振れ幅大きいわ!

www.youtube.com(2017年「ミッドナイト」カテコ映像、ジョン・ウォンヨンの「その日が訪れた」)

 

www.youtube.com

(2018年「ストーリ・オブ・マイライフ」キャストインタビュー)

創作ミュージカル「ルードウィクLUDWIG:ベートーヴェン・ザ・ピアノ」(2018-9年、韓国、初演)見て来たよ―「歓喜の歌」の悲劇効果がすごい!

ミュージカル「ルードウィク:ベートーヴェン・ザ・ピアノ」がJTNアートホール1館にて2018年11月27日~2019年1月27日まで公演中でございます。現在ソウルでは、創作ミュージカル「マリー・キュリー」も公開されておりますが、勝手に「偉人伝シリーズ」な気分で見てまいりました。聴力を失いつつも音楽を生涯鳴り響かせた作曲家ベート―ベンの一代記。伝記とみせかけて相当創作入ってる本作品。「スモークSMOKE」「インタビュー」の作・演出でもおなじみ(?)のチュ・ジョンファ作家の最新作。見て来たキャストはこちら!

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ルードゥウィク:ジョン・ウィウク

青年:キム・ヒョンジン

マリー:キム・ジユ

バルト他:ハム・フィス

ピアニスト:カン・スヨン

2018年12月現在インターパーク・グローバルには上がっていないチケットなので、韓国IDがない方は当日券狙い一択となっております。とはいえ、当日券でも全く問題なく中央前方席が確保できましたので、まだまだ余裕はありそうです。小さい劇場なので、後方席でも十分に楽しめるかと思われます。

www.youtube.com(2018年公演ハイライト映像)

あらすじ(主に韓国インターパークより)

モーツアルトの天才性、貴族社会の優雅さと保守性。平凡さを拒否した青年。人生の危機、死の誘惑を退けて自由と喚起を歌った稀代のアーティスト。「LUDWIG」、彼をまたとない「悲運の情熱家」と呼ぶ!――ベート―ヴェンは自分に残された日々が残り少ないことを知り、古くからの友に遺書めいた手紙を書き始める。ペンが紙の上を走るたびに、自身の過ぎ去りし日々が幻影のようによみがえる。子どものころのベートーヴェンは容赦ない教えのもと、手に余るピアノの前に座ってきた。青年になってからは聴力を失い、愛する女性をも失い挫折の沼にはまっていたその夜、見知らぬ女性マリーが少年バルトをつれて、ピアノを教えてやってほしいといきなり訪ねてくる。失った聴力、奈落に落ちた感覚にあったベートヴェンは全ての提案をかたくなに拒否するが、マリーは彼も忘れていた音楽の力とその中に込められた、世界へと広がる未来を語るのだった。「終わったと思った瞬間に、もう一つの世界が開かれた」偶然訪れた彼女から新しい希望と力を受けたベートヴェン、しかしこの状態も、どこかずれた情熱の始まりだったのだ。(インターパーク「ルードウィク」作品説明より싸니까 믿으니까 - 인터파크 티켓

・・・と、これはほぼほぼ前半部分で、ここからのベートーヴェンの重ーい愛情と毒親ぶり、オッサン臭いジェンダー観(まあ、18世紀ですからね)が辛い物語が展開されます。身近な人との愛情と愛着に基づく関係や、社会制度を生み出している「こうあるべき」という暗黙の了解が「自由に好きなことができる」というシンプルな選択を不可能にする状況、それから逃れようとする者の葛藤と挫折が描かれ、見ごたえがあります。ベートーヴェンと彼の甥の葛藤が極まる部分で「歓喜の歌」が流れるのですが、この絶望感たるや!ぜひ現場でご確認くださいませ。ちなみに、今回タイトルのLUDWIGをあえてハングル表記のタイトル音である「ルードウィク」(LUDWIGの英語読みルドウィグに準じている)と記述しているのは、劇中で甥が「ルードウィク!」と叫び「ルードウィクじゃない、ルートヴィヒだ!」とベートーヴェンが返すやり取りがあるので、あえて「ルードウィク」にしてみました。

演じ手と演奏家を兼ねるピアニスト

さて、本公演で音楽を担当するのは、基本「ピアニスト」のカン・スヨンさん。彼はこのミュージカルの伴奏を担当するピアニストなのですが、劇中の人物として、作曲も行う「ピアニスト」の役柄を当てられてもいます。「ピアニスト」は物語中ベートーヴェンの最後の手紙をマリーに届け、マリーに請われて自作の曲を弾くのですが、それはベートーヴェンの手紙によれば、彼のマリーへの最後のプレゼントでもある。「ピアニスト」は、ベートーヴェンが「新しい音楽」と認め、救いを感じた作曲家であることが最後の最後で明らかにされます。――が、この作曲家、ベートーヴェンを尊敬していたことは間違いないようですが、どれくらい親しかったかには諸説あるようでして。一応ミュージカルでは、一度だけ彼がベートーヴェンを訪ねるが、耳が悪いことを理解できず大声で怒られたと思ってあわてて出て行ってしまった。大事な楽譜を忘れて――という展開でした。さて、彼は誰の役柄をつとめたのでしょうか??というのも楽しめますよ。

 

感想の続きは以下に!

 

pokos.hatenablog.com

 

pokos.hatenablog.com

 

ミュージカル「ストーリーオブマイライフThe Story of My Life 」日本版上演決定―来年までに予習しませんか?

ミュージカル「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」の日本キャストでの公演が決定しましたね!2019年10月開幕予定の「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」ってどんなお話なの?と関心をもちつつも、公演はまだ1年近く先か・・とお思いのかたは多いかと。そんな皆様に韓国キャストの「ストーリー・オブ・マイ・ライフ스토리오브 마이라이프」を手掛かりに、予習を提案してみたい。

韓国では2010年に初演、その後2011-12、2015-6、2016-7、そして現在(2018-19年シーズン)と繰り返し上演される2人1幕ミュージカルの人気作。物語で重要な意味を持つ日、クリスマス・イブも初演をのぞいて公演日となっており、「わかってるぅ!」とうならざるを得ません。このクリスマス公演は客席のマニア濃度が極まり、愛あふれるオタク体験ができる特異日となっています。来年末にはきっとこの意味が分かるかたが激増するとおもわれますが、一足先にSOML(ストーリー・オブ・マイ・ライフの略称。韓国語の場合は솜:ソムと略されることも)の世界をのぞいてみましょう!

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出典:ホリプロオンラインチケットサイト「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」

horipro-stage.jp(韓国のツイッター民の間で、何でアルヴィンが裸足なの??と話題のポスターが光る公式サイト。・・・なんで裸足なんですか?)

お話はハートウォーミングと言われることが多いけど・・

 ここ数年、韓国ではクリスマスから年末年始にかけて上演される風物詩となった「SOML」。ハートウォーミングなストーリー、などと説明が入ったりすることもあるのですが。確かに曲調は暖かく、優しさに満ちておりますので、映像をみるとそういう印象を抱くかもしれません。

www.youtube.com(2018年シーズンの韓国版「ストーリー・オブ・マイ・ライフ」のハイライト映像)

しかしそのストーリーは、ウォーミングというよりは、締め付けられ涙を搾り取られること必至で、年末総決算「今年の悪いものを流し去ろう」キャンペーンに近いものがある。物語はーー。子どものころからの親友で、どちらかが先に死んだら残った方が弔事を書くことを約束しあったトーマスとアルヴィン。ついにトーマスがアルヴィンの弔事を書くこととなり、二人の思い出をたどっていくことになるのですが・・というもの。

ややネタバレですが、見た後まさに「なぜアルヴィンは橋から飛び降りたの?」「トムに拒絶された時、アルヴィンは何を想ったの」とぐるぐる疑問が回ります。と同時に、アルヴィン(この彼の存在をどう解釈するかも・・)が「This is it(これがすべて)」という曲に乗せてトーマスに「答えはね、わからない。わからないんだよトム」と言い、とても切ないけれど無限の可能性も感じる素敵な話をしてくれることを思い出し、涙しつつも、その開かれた解釈の可能性に「誰かと語り合いたい!」とさけばずにはいられなくなる。誰かと一緒に行かなくてもいいけれど、後で語れる人が見てくれていることを祈りたい作品なのでございます。

予習1:映画「素晴らしき哉、人生!」を見ておきたい

さて、「SOML」では、トムとアルヴィンが大好きな映画、クリスマスには二人で鑑賞する「決まり」になっている作品として、「素晴らしき哉、人生!It's a Wonderful Life」(1946.米)が登場します。映画の登場人物である天使クラレンスとジョージの関係はトムとアルヴィンの関係性を様々な意味で暗示するのです。また、この映画で登場する小説『トム・ソーヤの冒険』も、ミュージカル「SOML」の中では、アルヴィンがトムに「人生を変える切っ掛けを与える」アイテムとして登場いたします。観客はこの『素晴らしき哉、人生!』を見ておくと、「SOML」ワールドが二倍にも三倍にも楽しめること間違いなし!ですよ。

予習2:トーマスが劇中で書いた作品を読もう!

もう一つは、非常にマニアックな予習ではございますが・・。作中でトムことトーマスが大学入学のために提出した短編小説「The Butterfly(蝶)」が、実は実際に発行されております!kindle版でも読めるこの絵本(?)を、よみすすめておくのはいかがでしょうか?SOMLの作家であるBrian Hillの挿絵入りというおまけ付き(米AmazonのIDが必要です)。

www.amazon.com劇中では、この小説を大学に提出すべきかどうかを迷うトーマスが、アルヴィンに内容を語って聞かせます。お話を聞きトムの才能に気づいたアルヴィンは、自分の発する一言によってトムがこの町から出て行ってしまう、その寂しさをぐっと押さえ、トムの背中をそっと押します。ここな!アルヴィンの孤独とトムへの思いの深さに、ぐはぁああ!っとヤラレる場面です。また、「The Butterfly」の内容は歌で解説されるのですが、この曲はトーマス役の俳優さんの見せ場の一つとなる、非常に人気の高い名曲です。「The Butterfly」はどんな曲?という方に、韓国版SOMLから、チョ・ソンユン(旧チョ・ガンヒョン)さんの「ナビ(蝶)」をどうぞ!

www.youtube.com