韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル「ザ・デビル」(2017年版)観覧記-まばゆい光が眼を刺すよ!

なかなか見て来たミュージカルの感想が描けない今日この頃。みなさまいかがお過ごしでしょうか。すでにひと月くらい経過してしまいましたが、ミュージカル「ザ・デビル」(2017年版)見てまいりました。2017年2月14日から4月30日まで、大学路にあるドリームアートセンター1館にて上演中。今回は16歳以上観覧可となっております。インターミッション無しの110分。わかりにくい!という批評をうけての新演出。さてさて「わかりやすく」なったのか。見て来たキャストはこちら!

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(配役名が読めない・・)

Xホワイト:チョ・ヒョンギュン

Xブラック:チャン・スンジョ

ジョン・ファウスト:ソン・ヨンジン

グレッチェン:イ・イェウン

そもそものあらすじ

お話は実にシンプル。ゲーテの「ファウスト」を基に造られた台本ですが、メフィストフェレスは登場せず、Xという役柄が創作されています。なので、しょっぱなから「ファウスト」色が薄まるというかなんというか・・なストーリー。

アメリカ人証券マンのジョン・ファウストは投資家のためを思った仕事っぷりからも人柄の良さがうかがえるようなキャラとして登場します。彼には愛する恋人グレッチェン(Gretchen、日本語ではグレートヒェンと表記される)が。信じあい、愛し合う二人。しかしブラックマンデーで株価が大暴落すると、二人の関係に変化が訪れます。ジョンは大混乱に陥る市場を前に、顧客を救ってあげたい一心で苦悩します。彼を支えようとするグレッチェン。しかしファウストは現状を打破したい一心で、Xブラックの誘惑に負け、魂と引き換えにした成功を保障するという契約を飲んでしまうのです。仕事が上向いていくにつれ、当初の目的以上のものを望むようになるファウスト。そんなファウストグレッチェンは必至で止めようとします。人が変わったようになり、やがては守ろうとしていた顧客を死に追いやってしまうようにさえなるファウストグレッチェンはそんなファウストの罪をすべて背負うかのように、次第にくるっていくのでした。そしてついに、ファウストグレッチェンが信じる神(ホワイト)を選ぶのか、悪魔(ブラック)を選ぶのかを迫られ、神を信じられないファウストグレッチェンの魂を失ってしまうことになるのでした(しかし最後、グレッチェンはホワイトによって魂を救われます)。グレッチェンを失い、正気に戻る(?)ファウスト。その時悪魔は彼の魂を奪うために、彼の前にあらわれるのでした。・・・というようなお話です(ちょっと時間がたっているので、前後する部分もあるかもしれません)

まとめると、悪魔にそそのかされて破滅する、その一文以上の出来事はない!とさえいえるシンプルストーリーです。もう、ストーリー理解は必要ないんじゃないか?と思えるレベルと言えましょう。

3人劇から4人劇へ

さて、今回、2014年の初演から3年をへての再演となったわけですが。初演時にXは1人の俳優が演じる役でございました。つまりこの劇は3人劇だった。善と悪、光と闇が1人に表現されるこの劇は「ようわからん!」というつぶやきをもらしもした(らしい)。そのためなのか。再演にあたりXはホワイトとブラックに分離され、そ異なる俳優がこれを担当。4人劇となって歌のバリエーションは増え、ついでにかなり書き換えられ、韓国ミュージカルではよくあるパターン、ほとんど新作な再演となったのでございます。

で、「わかりにくさのポイントは、Xを分けることで解決できる問題ではない、ということはわかった」のでありました。そこ、ちがうから!むしろお話が薄っぺらくなるからー、と、叫びたいくらいだった。Xという存在を、どのような心で見るかによってそれは欲望にもなり、希望にもなるのだという初期のメッセージ(たぶん)を失ってまで、分ける意味はあったのか。謎でござる。3人劇のまま、できることはまだまだあるのに、とおもわされた作品でございます。

220Vの衝撃

というわけで、ややストーリー的に「うーん」とうならされた今回の「ザ・デビル」。しかし音楽は素晴らしく、OSTだけでも聞くべき、と思わされるクオリティ。ここら辺も韓国ミュージカルらしいというべきか。曲・歌唱レベルが高く「コンサートだと思えば、十分満足である」という錯覚におちいってしまう。いや、ミュージカルなんだけど。

そして今回、この舞台の目玉として面白かったのは。さして大きくないドリームアートの舞台を埋め尽くす光・光・光・・。照明デザインの方が加わったという今回の舞台は、レザービームが眼を刺す、おちおち眠気をさそわれてさえいられない光の祭典だったのです。「大学路のエレクトリカルパレードや」と、叫びたくなる光具合。日本であんなに光らせるには電圧が足りなそうなくらい、舞台上に光が渦巻いておりました。目の弱いかたは、サングラス持参でどうぞ。

小ネタ-イ・サンイさんの自主製作映像LALALANDパロディ「駱山ランド」を見てナクサン公園に行ってみよう

公開されてから日数もすぎ、すでに目にされた方も多いとは存じますが、備忘録的に記事にしておきたいと思います。「スリルミー」2016年版や、「私とナターシャと白いロバ」でも活躍、次回作「狂ったキス」(演劇)も気になるミュージカル俳優、イ・サンイさんが自主制作・出演した、ミュージカル映画「La La Land」のワンシーンの再現映像、駱山公園で撮影されたこともあり「駱山ランド」と呼ばれる映像が素敵です。

 この映像は、イ・サンイさんがいうなれば「思い付き」で制作を決めたものらしいのですが。撮影地の決定、撮影監督等への依頼。5週間程度の事前練習など総準備期間は2カ月。設営もふくめた撮影時間に8時間をかけた本気の3分弱なのです。

www.youtube.com

当初は第二展望広場が撮影予定地だったそうなのですが、再開発工事にひっかかり中止。実際の撮影場所となったのはマウルバス停車場付近(「遊び場」あたり)のようですね。

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(駱山公園地図)

4号線恵化(ヘファ)駅(大学路の駅)から歩いていくこともできますが(マロニエ公園をつっきってずーっと上った先)、結構大変なので、東大門駅(1・4号線)5番出口からマウルバス鐘路3番にのって「ナクサン終点(チョンジョム)」で下車するのがもっともはやいかもしれません。

さあみんな「LALALAND」ごっこをしよう!いや、「駱山LAND」ごっこか・・。

 

※イ・サンイさんの「 駱山LAND」制作記は「ザ・ミュージカル」サイト記事に詳しいです(記事のリンクはこちら→더뮤지컬 )。中国から取り寄せようとした衣装が未だ届いていないエピソードが笑える・・。

 

ミュージカル「スリル・ミー」(韓国キャスト、2017年10周年版)見て来たよ-伝説はダテではない!チェ・ジェウン、キム・ムヨルペア編(3)

フォトブック、OST絶賛発売中の韓国版「スリル・ミー」。フォトブックのヒモをほどいたらもう二度とかわいく復元できないとうわさの韓国版「スリル・ミー」(単に不器用)。2017年2月14日~5月28日まで、ベガムアートホールにて上演中でございます。ぼちぼち前半ペアの千秋楽もせまってきております。みなさまベガムアートには足を運ばれましたでしょうか?

ーー大変ながらくお待たせいたしました(え、誰も待っていない?)。まもなく「韓国ミュージカルライフ」、第三幕開演でございます――ということで。なかなか記事がまとめてかけない今日この頃。かなり間延びいたしましたが、伝説チェ・ジェウン、キム・ムヨルペアの感想。しつこく続きを書いてまいりたいと存じます。

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(2007年初演時ポスター。ホラー映画か!)

 「彼」の若さゆえ・・が伝わってくる

 さて、阿吽の呼吸、オシドリ夫婦なウン・ムペアですが、キム・ムヨルさんの「彼」の魅力にも迫ってみたい。今回のムヨル・リチャードは中二病をこじらせた若者。しかも下手に頭が良いために「俺って超人(Byニーチェ)じゃん!」に微妙に回りもツッコめないでいる(たぶん)痛いやつ。考えてみれば、劇中での「彼」の設定年齢は20とかそのあたり(だったよね)。妙にスマートで大人びたふうな「彼」が少なくない中、人間のできてなさが実にガッツリと表現されたムヨル・リチャードは、原作イメージに最も近いというべきなのかもしれません。

だから、でしょうか。弟を殺すことを思いついたときの曲「The Plan」が、今回なんだかとってもしっくり腹に落ちた。もし弟を殺したら・・・と妄想する歌詞が展開するこの曲。もし弟を殺したら・・遺産が全部俺のものとか、父親はおかしくなるだろうとか、いろいろな状況があげられるのですが、その一つに「弟を殺せば、広い部屋が使えるようになる」という部分があるのです。いつもこの部分を聞くと、ダンディな「彼」がなぜそんなに部屋の広さにこだわるのかと違和感を抱かずにはいられなかった。しかし、ムヨル「彼」は違う。こいつなら言うだろう。根本的に小学4年生男子くらいのメンタリティに中二病が宿ってる20歳。今でも弟におもちゃ取られたのを根に持っていそうな「彼」・・。奇妙な納得感があるのです。

この役作り実にニクイ。じわじわ後半にきいてきます。

残酷な天使のように

「スリル・ミー」という作品では、後半二人が収監された際に「彼」が(「私」には気づかれていないと思いつつ)不安感を吐露する曲「Afraid」があります。演技プラン鉄仮面系「彼」や野獣系「彼」、DV「彼」であればその落差が一つの見せ場となるわけで。もちろん、このシーン直前の留置所での「彼」から「私」への懇願を踏まえてのここのシーンは注目ポイント。はい、ここね、大事なところです。というか、前後どこもかしこも重要ポイントでラインマーカー引きまくりですけれども!

話を戻しますと。とりつくろうことを忘れた「彼」の「怯え」を、実はしっかり聞いている「私」。この時「私」がどんな反応を見せるのか。「彼を崇拝していた私の絶望」なのか「とりつくろえなくなった彼を知ってしまったばつの悪さなのか」「彼にそんな吐露をさせてしまったことへの自戒なのか」などなどのバリエーションによって、無限に「彼」と「私」の関係性を妄想することができる。さらに言えば、この流れがあってこその「99年」(護送車のなか)での「私」の告白。この物語の核となるシーンなのです。「彼」の怯えを知ってしまった上で「私」は「彼」に事実を「どのように」告げるのか。最大の見どころがやってきます。

ウン・ムペアの「99年」シーンは超泣けました。それは、ムヨル「彼」が「Afraid」で子どものように泣き崩れ、そのことに胸が張り裂けそうな「私」という流れ、前フリあっての緊張感。なんでもないように軽口をたたきあう二人。「彼」にしてみれば、留置所での懇願へのばつの悪さと、「私」への期待がそこにあるのでしょう、そしてそれを「私」はわかっているということも、観客にはつたわってきます。この空気感がたまりません。「私」、辛すぎる・・!この「私」の辛さを理解できない「お子ちゃま」なムヨル彼がこのシーンを引き立たせもします。告白を通じて、「私」は「彼」との何を失ってしまうのか、そのことを「私」は、あの時、そして今、どのようにとらえているのか。最終シーンにつながるこのくだりが、ムヨル「彼」の役作り効果もあって、「私」の切なさを一億倍増しにするのでございます。もう、二人とも抱きしめてあげたくなりますよ(殺人犯だけどね!)。

ペア千秋楽は4月9日ソワレ

伝説のウン・ムペアのペアマッコン(千秋楽)は4月9日の6時公演。もちろんすでに9日のチケットはマチネもソワレも売り切れ中ではございますが。未見のかたは是非ウン・ム伝説ペアでの観劇をご検討ください。強く、強くお勧めしておきたく。本家という基準点あってこそ、さまざまなバリエーションが、より一層楽しめること請け合いなのでございます。