韓国ミュージカル☆ライフ

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演劇『R&J』(2019年、再演)見て来たよ―「演じること」がもたらすカタルシスを共に経験する舞台(その1)

演劇『R&J』が2019年6月28日~9月29日まで、東国大学イヘラン芸術劇場にて上演中。ジョー・カラルコの脚色・演出で1997年ニューヨークで初演された『Shakespear's R&J』の韓国再演(韓国初演は2018年)。厳格なカトリックの全寮制学校で暮らす男子学生4人が、夜中にこっそりと「ロミオとジュリエット」のリーディングを始めるという設定の本作品、演じる人間を演じる俳優たちの没入ぶりも見どころで、何回も見たくなること間違いなし。上演時間は二幕150分(公式)。しかしなぜかいつも3時間近くかかってしまうこの不思議。最初に見たのはこのメンバー!

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学生1:キ・セジュン 

学生2:ホン・スンアン

学生3:ソン・ユドン

学生4:ソン・グァンイル

ロミオとジュリエット』をこっそり演じる男子学生たちの物語

 本作品はシェイクスピアの『ロミオ&ジュリエット』を骨格とし『真夏の世の夢』『ソネット#18、116、147』『ヴィーナスとアドニス』の言葉が随所にもちいられ、構成されております。ジョー・カラルコの脚色・演出版をチョン・ヨン作家(『神と共に』等)が韓国語へと翻訳し、キム・ドンヨン(『新興武官学校』等)さんの演出、ソン・フィジンさんの振り付けを加えることで、超カッコいい韓国版の『R&J』に仕上がっておりまする。イヘラン芸術劇場の高さのある空間と厳かな照明、ここぞという場で効いてくる「音楽」による演出も、シビレル・・。

 さて、『ロミオ&ジュリエット』を演じるのは、厳格なカトリックの全寮制男子校に通う学生4人。彼らは日中、勉学にいそしみ学校が与える価値の中でのみ行動することを要求されています。規則に反すると体罰が与えられさえするのです。「嘘をついてはいけない」「盗みをはたらいてはいけない」「自らを欺いてはいけない」「だれも殺してはいけない」「欲望の奴隷にされぬよう――」機械的に繰り返し叫びながら、彼らは自分の中にある感情を押し殺して日常をやりすごしています。そんな彼らが発見した楽しみ。それは夜中に寄宿舎を抜け出して、隠してあった『ロミオ&ジュリエット』の戯曲を読みながら、それを遊び半分に演じてみること。それぞれの役どころを「誰がやる?」という風に目くばせしたり、お前がやれよ!とお互いアツを掛けたりしながら複数の役どころを演じていきます。男性キャラクターの「下品な」言葉におどけつつも盛り上がったり。乳母ややジュリエットの母などの「女性キャラクター」をわざとらしく演じて見たり。「嘘をついてはいけない」「自らを欺いてはいけない」そんな日々の抑圧を「べ、べつに本当の意味でこの言葉をいってるんじゃないんだからね!」とばかりに、学生達は「役柄」を免罪符にして禁じられた言葉を話す「自由」をひそかに楽しみます。喧嘩のシーンはこんな風に演じたらいいんじゃない?戯曲を包んでいた布を使って、演出の提案もしてみたりしながら。そのお遊びは、彼らにひと時の気休めをもたらす程度のもののはずでした。

 がそんな中彼らに最初の変化がおこります。普段の勉強用ノートにソネットをこっそり落書きするくらいのシェイクスピア信者で、上演にもっとも積極的な学生1は、遊び半分のほかのメンバーがちょっと不満。ジュリエットを演じることになった学生2も、「俺がジュリエットなの?」という風でわざと「男らしく」話してみたりして反抗的。しかし物語が本格的に展開し、ロミオとジュリエットが恋に落ちていく過程を演じるうちに学生1と2はどんどん「演技」にのめりこんでいくのです。そこで演じられる恋心が、学生1と2の心の奥底に初めから存在していたモノなのかどうか?それは見る人(と演じ手の演じ方)によって変わりそうな部分。実は学生1は学生2がもともと好きだったからこそジュリエットに抜擢?した、というような「学芸会あるある」としても読めます。また、学生2は秘めていた恋心を学生1に見透かされたようでドキドキしたからこそ、わざとジュリエットを「男っぽく」演じようとした、とも見て取れるのです。しかし個人的には、ここはあえて学生1、2は「演じているうちに、(戯曲に描かれた)恋心というものの在り方、衝動的に突き上げてくるような情熱を『つかんで』しまった」と言う風に捉えてみたい。

 恋の演技にのめりこんでいく2人を目にして、学生3と4はちょっと慌てます。ちょっとちょっと、なにマジになってんの。こんなの遊びじゃないか!おもわず「演じる」ことをやめさせようとさえします。学生達が日常の中で刷り込まれた「欲望」への恐怖がそんな風に彼らを駆り立てるのかもしれません。この学生3と4の劇を継続することに対する妨害は、『ロミオ&ジュリエット』の主人公二人の恋路を邪魔し、その間を引き裂こうとする力を示す演出にも見えるという「う、うまい・・」と唸らせられる部分です。妨害にも関わらず、二人があくまでも「演技」を続けようとする姿を見ているうち、学生3・4は自らの中にあった(たぶん「自分」を解放してしまうことへの)恐怖をふと相対化できるようになります。そして彼らは、「演技」に正面から向かい合う決意をするのです。この、学生3と4の中に起こる変化が、舞台の空気を一変させます。ここから二幕最後までの「もってかれる・・!」感が半端ない。学生3と4がそれぞれ「こんな風に(のめりこむほどに)演技していいんだ・・。」と吹っ切れるところから、彼らの演じる『ロミオ&ジュリエット』のレベルが爆上がりします。俳優さんたちが押さえていた(?)演技力も爆発しますよ!

つか、ここまで書いてまだ1幕の内容ですな・・。長いな。書いたら(見たらあっという間!)。

・・・というわけで、続く。

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pokos.hatenablog.com