韓国ミュージカル業界の困難さ-アジアブリッジコンテンツをめぐる出来事によせて

2017年秋に再演が予定されていたにもかかわらず、その後なんの告知も出ないことに気をもまれていたかたも多いであろう、韓国オリジナル創作ミュージカル「ゴーン・トゥモロー」。この作品の企画会社でもあり、キム・スロプロジェクトなどを手掛けてきた大学路ミュージカルの雄、アジアブリッジコンテンツが、会社更生法の適用をうけたことが数日前に話題になりました。

例えば以下にあげたイーデイリー2017年8月18日記事、「キム・スロプロジェクト制作「アジアブリッジ」更生承認、俳優未払い賃金どうなる」では、大学路演劇界の恒常的な問題点も指摘されており、自転車操業的な資金回収方法や、賃金後払い制度、労働条件のあいまいさなど、その深刻さがうかがえます。アジアブリッジコンテンツは、急速に事業を拡大したこともあり、昨年(「ゴーン・トゥモロー」なども含めて)からスタッフや俳優さんたちへの賃金未払い問題がささやかれておりましたが、それをだましだましやり過ごした結果の90億ウオンの負債だったようなのです。

www.edaily.co.krとはいえ、この記事の段階では、保有作品の著作権の海外活用やエンターテインメント活用などによって更生を図る計画がなされてもいました。アジアブリッジコンテンツ(略称アプコン)が保有する作品群は大学路でも人気の演目が多く、実際その可能性は低くないと思ったファンもたくさんいたとおもわれます。

しかし、追い打ちをかけるような事件の速報がありました。以下にあげた中央日報2017年8月21日記事「「大学路ミダスの手」チェ・ジン代表息絶えているのを発見」。

news.joins.com21日の18時ごろ、アジアブリッジの代表が、マンションの駐車場でなくなっているのを発見されたとの報道でした。SNSで遺書が送られていたことから、自殺とみられており、各界に衝撃がはしっています。冥福を祈ることしかできないのですが・・・。

韓国のミュージカル業界は、ライセンスの海外輸出や中国公演の実施など一見好調にみえはしても、市場が狭く様々な問題を抱えています。「二都物語」の突然の取りやめや企画会社の倒産をはじめとし、昨年では「ロッキー」の中止、今年に入ってからの「ロミオとジュリエット」の中断など、公演自体が立ち行かない可能性を常に秘めている。こうした出来事ができるだけ起こらないよう。いちミュージカルファンにはなにができるのか、考えずにはいられない出来事でした。

――ザ・ブリッジ(大学路でアジアブリッジコンテンツが経営していたカフェ)でよく見かけた方であっただけに、衝撃です。心からご冥福をお祈りします。

ミュージカル「ソピョンジェ(西便制서편제)」予習-名作映画が無料で見られるよ!

ミュージカル「ソピョンジェ(西便制서편제)」(2017年版)がもうすぐ開幕。2017年8月30日から11月5日まで、狎鴎亭のBBCHシアターにて上演予定の本作品。もちろん原作は超有名な1993年公開の韓国映画西便制서편제 Sopyonje 」でございます。いやまあ正確に言うと、映画の原作は李清俊(イ・チョンジュン)の小説「남도 사람 (南道の人)」の西便制編と音の光編なのでございますが。ミュージカルのストーリーは、基本映画編を基盤とするものとなっておりまする。

さてこの映画、公開当時の評判たるやすさまじく、ソウルでの観客数が初めて100万人をこえた作品となりました。日本でも「風の丘を越えて」というタイトルで公開され、観客動員数が10万人を超えた初の韓国映画と言われております。「シュリ」以前に韓国映画ファンのベースをつくった一作。韓国映画史においてもかならず言及される名作なのでございます。

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 (監督は韓国が誇るイム・グォンテク)

さて、この映画未見のかたはミュージカルを見る前にみるか、後で見るか悩ましいところ。一時期アマゾンなどでDVD価格をみるとびっくり価格(高い)になっており、入手困難な状態でしたが、最近ブルーレイが販売されたようで、価格もおちついてまいりました。

 とはいえ、予習にこの値段はね・・と、TUTAYAカードを手にしたあなた。一応無料で見る方法(合法)がございますので紹介しておきましょう。そもそも、韓国には韓国映画を国家の文化遺産ととらえ、これを収集する国立機関が存在いたしまして。その名も韓国映像資料院。イム・グォンテク監督は韓国映画の巨匠ですから、もちろん資料院にその作品が収蔵されておるわけです。しかも、資料院、収蔵して保存するだけではないのがすごいところ。広く学術研究等に利用されるべく、つくったアーカイブをなんとびっくり無料で見放題なYoutubeで公開しているのです。フィルムアーカイブYoutubeチャンネルは以下。

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ここの検索窓に서편제といれていただくと、ソピョンジェがリストに上がってまいります。年齢別視聴制限がついておりますので、YouTubeログインして御覧くださいませ。とはいえ問題がなくもない。使用言語はもちろん韓国語。そして字幕は韓国語・英語などが基本でして、日本語がついていないものがほとんど。というわけで、グーグル先生に韓国語字幕を翻訳していただきつつ見ることになるのですが。この翻訳が珍妙な訳になることも少なくない。見ていて不思議とストレスのない作品もあるのですが・・。ともあれ、無料でまずはちらっとみてみて、ガッツリ視聴しようと心に決めてから、TUTAYAに走られてもよろしいのではと。

ミュージカル「インタビュー인터뷰」(2017年版)見て来たよ-最低2回は見たい作品。

報告が千秋楽直前となってしまいましたが、DOUBLE K.Film &Theatreがお送りする創作ミュージカル第一弾。昨年のプレビュー後、京都・東京・ニューヨークでも上演され、豪華キャストで再演された2017年版「インタビュー」。張りつめた空気の中での110分ノンストップ1幕もの3人劇、みてまいりました。本作品は2017年6月1日から8月20日まで、大学路TOM1館で上演中。今週末で千秋楽を迎えてしまいます。報告がおくれてもうしわけございません。もらったチラシには「世界が認める『大韓民国ウェル・メイド』創作ミュージカルの帰還」とありますが、ここでいうウェル・メイドはわかりやすさの意よりは、構成の妙を指すようで。大学路ミュージカルの演劇部門賞をあげたい!と思う「芝居度」の高い作品でした。見て来たキャストはこちら!

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ユジン・キム:カン・ピルソク

シングレア・ゴードン:キム・ジェボム

ジョアン・シニア:キム・ジュヨン

ピアノ:キム・スヨン

ある事件の記憶をたどる心理劇

ミュージカル「インタビュー」は、ある連続殺人事件の記憶をめぐる心理劇。とある事件をめぐる心理劇といって思い出すのは、韓国ミュージカルを代表するあの作品。「ブラック・メリー・ポピンズ」。「インタビュー」をみていると、ふと、ブラメポの記憶がよびおこされる。もちろん、まったく異なるお話なのですが、トーンや世界観、空気感(ってなんなんでしょうね)が似ているのです。おりしも劇場はTOM1館(「ブラック・メリー・ポピンズ」上演館)。この世界がお好きな方(私含む)にはたまらん作品でございます。帰りがけに韓国のお嬢さんがたも「ブラメポ思い出したよね」とつぶやいてらっしゃいました。私だけの妄想ではなかった模様。

さてここで、簡単にあらすじを説明しておきたいところですが。この作品、あらすじ説明はオールオアナッシングにしかできない。俳優さんたちのPR動画などを見ても、役どころの自己紹介すら困難な様子。そう、自分の演じている人物が誰なのか、ということ自体がトリックとして物語にくみこまれているのでございます。

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(「マット・シニア役の・・」と言った瞬間「ネタバレじゃ?」とツッコまれるコ・ウンソンさん)

本作品の物語は循環構造をなしておりまして。最初のシーンと最後のシーンは同じ。しかし観客は最初に感じた印象と、まったく異なる意味を最後のシーンに読み込むことになるのです。舞台上でユジン・キム先生がとる行動は全く同じなのに、その内面が全くことなるものとして想像できるようになる。これ、ホントに1度はあらすじを知らないまま見たほうが幸せな作品です。この落差をどれだけ感じられるかが一つポイントになっておりまして。というわけで、あらすじ回は別記事にまとめたいと思います!

3人の俳優さんの演技力対決!

さて、ちょこっとだけネタバレしますが、本作品にはさまざまな人格をもつキャラクターが登場します。そのため、基本的に会話をすすめていく男性2人の俳優さんの関係性も、場面ごとに変化していく。そしてそれが真なのか偽なのか、観客が混乱させられるところに面白さがあるのです。ですから、俳優さんたちはその場面で設定された人物・関係性こそが真実であるかのように演じなければならない。この演技にリアリティがなければ、この作品は面白くならない。今回見て来たキャストはカン・ピルソク、キム・ジェボム、キム・ジュヨン。その演技力に疑いの余地なしメンバー。キム・ジェボムさんの「子供っぽいー男前ー狂気」のふりはばを一度に堪能できたりもして、「どのジェボムさんがお好みですか?」と試されているかのようでした。

しかもですよ、このミュージカル。全組み合わせ最高なキャスティングで攻めてきているではありませんか。俳優ごと、組み合わせごとに異なる印象をあたえる鬼配役。ほかのキャスト・組み合わせも見たくなる韓国ミュージカルの王道戦略、回転ドア・ホイホイシステム(勝手に命名)導入済みなのです。MDショップ横の再観覧スタンプ列も長くなるというものでしょう。