韓国ミュージカル☆ライフ

韓国ミュージカルを楽しみつくすブログ

ミュージカル「スモーク」(2017年版)感想(2)-演劇的面白さがつまった小劇場ミュージカルの極み!

ゴールデンウィークももうすぐ終わり。しかしもしかするとGW後のソウル観劇旅行を計画されている方もおられるやもしれません。そんな方々におすすめしたいのが、2017年3月18日から5月28日までユニプレックス2館にて上演中の韓国オリジナル創作ミュージカル「スモーク」。ということで、感想(にまでたどり着いていない作品紹介の)続きとまいりましょー。

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(見にくいですが、キャストボードの一部拡大)

「スモーク」のキャストボード横には李箱の詩「烏瞰図第15号」の一部が引用されています。詩心なく直訳すると以下のような文章。ミュージカル「スモーク」は、ここに描かれた、「鏡の世界」で物語が繰り広げられるのです。

私は鏡のない室内にいる

鏡の中の私はやはり外出中だ

私は今鏡の中のわたしを恐れ震えている

鏡の中の私はどこかに行き

私をどうにかしようと企んでいるところだろうか

あらすじ紹介(前半部分)

ミュージカル「スモーク」の物語は、囚人服を着せられた男にスポットライトがあたるシーンから始まります。今回キム・ジェボムさんが最初のシーンに登場したため、なんだか「スリル・ミー」感が半端なかったりもして。脳内「スリル・ミー」汚染度の深刻さに気付かされもしました。・・ともあれ。

彼は病を患っているらしい。そして彼の耳には数々の彼の作品を非難する声が聞こえているようだ。彼は何かを決心して、部屋を飛び出す。

舞台はかわって、男二人が女をさらってきたらしいシーンが展開される。最初のシーンに登場した男は(今回はキム・ジェボムさんが演じる)「チョ」と呼ばれ、もう一人(ユン・ソホさん)は「ヘ」と呼ばれている。彼らは「海」へ行くために女をさらい、人質として身代金を請求しようとしているのだった。女は三越百貨店の娘であるとされているのだが。はたして彼らは何者で、なぜ海へ行こうとしているのか?ミステリー仕立てに物語は始まります。

チョは「彼らがいる部屋」身代金を要求するために外へ出かけるさい、ヘに向かって女と話しをしてはならないと言い残します。しかし、チョが出かけると、心優しいヘは、苦しそうにせきこむ女を見かね、彼女のさるぐつわを解いてしまう。そこに吐血の跡を認めたヘは、彼女がチョ同様、肺の病に脅かされているらしいことに恐れを抱きます。彼女の体を案じるヘ。言われるがままに目隠しを、そしてついには手の縄をほどいてしまうのでした。

ホンと名乗るその女はヘを見て、自分のことがわからないのかと尋ねます。しかしヘに覚えはありません。なぜ自分を誘拐したのだと問われると、それはチョと自分が「海」へ行くためだと答えます。「海」にいけば自分は好きなだけ絵を描き、チョは詩を書くことができる。海は河と異なり凍ることがない。雄大な海。二人は海について語り合い、その場を夢見てヘとホンは楽しくダンスをおどりはじめます。心の通じ合う二人。そこへチョが戻ってきます。女と話すなと言ったにもかかわらず、女と心通じ合わせている様子に憤るチョ。その場を取り繕おうと女はコーヒーを淹れふるまいます。それを飲んでねむってしまう「へ」。睡眠薬が入っていた様子。

眠ってしまったヘを挟んで向き合うチョとホン。ホンー女はチョのことも知っている様子です。彼女は三越の娘ではありませんでした。女は、チョはどうしても自分と一緒にいたいのでしょう、と言います。チョは、自分たちが「海」へ行くため、彼女が必要なのだと認めます。それはヘもわかっているはずだと。はたして「ホン」とは何者なのか。なぜ彼らは「海」にいくために彼女を必要とするのか。謎は深まるばかり。

やがてーー、目を覚ましたヘは、次第に記憶を取り戻し始めます。貧しい両親に里子に出され、周囲を気にし、絵をやめ勉強することにした子供時代。文章を書き始めた記憶。そのときの苦しみや苦痛、そして絶望。それとの付き合い方さえも。その後、発表した作品が人々に非難され続け、死を選ぼうとしたとき、「女」が常に文章を書かなくても生きていけるのではないか、あるいはもっと人々にわかるように書けばよいではないかと自分を引き留めてきたことも。この「女」-ホンは、記憶の中で思慕し続けた母のようでもあり、彼を愛し、現実の生活を支える女のようでもあり、そうした彼にとっての「母性」すべてを象徴しているようでもあります。

記憶を取り戻し混乱するヘ。彼が再び死を選ぼうとしたそのとき「女」はやはり彼を必死でひき止め、いっそ自分を殺せと叫ぶのです。チョはそんな「女」に銃を向け、無常に引き金をひくのでしたーー。しかし。

 

・・・超長いので続きます!

ミュージカル「スモーク」(2017年版)感想(1)-演劇的面白さがつまった小劇場ミュージカルの極み!

みなさまご無沙汰しております。ゴールデンウィークいかがお過ごしでしょうか。すでにソウル滞在中の方々も少なくないのでは、と推測する今日この頃でございます。ここのところ、「スリル・ミー」の話しかしていなかったような気もするので(いや、まだまだ書き足りないことはあるしかけてないペアの記録が・・たまっているのですが)、もし韓国滞在中にもう一つ観劇計画を増やそうかな?とお考えの方々がいらっしゃいましたら、強力にプッシュしたい作品がございまして。

2017年3月18日から5月28日までユニプレックス2館にて上演中のミュージカル「スモーク」が強烈に素敵なのです。このミュージカルは、大学路系でおなじみ少人数(3人)ミュージカル、110分一幕ものとなっております。二幕もの大作を続けてみるのはおなか一杯すぎる!という場合にも、組み込みやすい仕様なのです。ちなみにインターパーク単独販売ですので、ご注意を。見て来たキャストはこちら!

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チョ:キム・ジェボム

ヘ:ユン・ソホ

ホン:ユ・チュヘ

韓国近代文学史に詳しくなくても楽しめる!

インターパークの紹介欄には「天才詩人、李箱(イ・サン)の詩がミュージカルに。李箱の詩「烏瞰図 詩第15号」から出発したミュージカル「スモーク」」と記載されておりますが。「イ・サンっていわれても、第22代王・正祖(チョンジョ)しかしらないよ!」「え、イ・ソジンが王様演じてたドラマでしょ?」とおっしゃるかたも少なくありますまい。「烏瞰図 詩第15号」などと言われても、じゃあ何が1号なの的ハードルを感じます。

しかしみなさまご安心あれ。おおよその李箱の生涯をウィキペディア先生から学んでおけばなんとかなる。というか、李箱(本名キム・ヘギョン)は1930年代の京城で花開いたモダニズムを象徴するような詩人で作家。26歳で夭折、日本語でも作品を発表した人物。その作品のぶっとび加減から、発表当時は避難ごうごうで連載が中断させられた奇才系。子どものころ実家が貧乏で親戚の家に里子に出され、周囲の目をうかがいつつ母の愛情に飢えて育つ。長じては妓生のヒモとしてふらふらし、カフェを開いてはつぶしつぶししつつモダンボーイとして名をはせた。作品は批判にさらされまくり心と体を患い、朝鮮を離れ日本に流れ着き、そこでスパイ容疑をかけられて牢屋にぶち込まれた挙句、病気(結核)悪化により釈放、手記を書いて東京で亡くなった、くらいの知識で十分かと思われる。

彼のおおよその生涯は、物語の「謎」のベースにもなっているので、知っておいたほうがストーリーがわかりやすくなると思われます。というのも、ミュージカルは、李箱の生涯を順を追って描くというより彼の苦悩と心理的遍歴を一つの物語として、しかもややミステリ仕立てに再構成したものとなっているという凝ったつくり。国民的作家なので、だいたいのことはみんな知ってるよね、的扱いなのです。

しかししつこいようですが、彼の詩を一篇も知らなくても、これ以上の李箱の生涯を知らなくても、物語中にたくさん有名な詩が曲となって(台詞にもなって)引用され、紹介され、ミュージカルの世界観(と、謎の一部)を構成しているので問題ありません。さらにいえば、曲自体もかっこいいので、いっそ台詞がわかんなくても楽しめるのではと思われる(韓国ミュージカル、恐ろしい子・・)。

もちろん、劇中で引用される彼の詩は、いまだ新鮮で、なにそれ面白い、読んでみたい!とおもわされる衝撃度なので、彼の作品を予習しておいて韓国語を拾い聴きするとより音楽のカッコよさに酔えるかもしれません。

李箱作品集成

李箱作品集成

 

 (現在青空文庫が作業中。もうちょっとでもっと自由に彼の作品にふれられるようになる・・はず)

・・・あ、感想までたどり着かなかった・・。続く!

大学路観劇前グルメ(その3)-ソウル3大パン屋「ナポレオン菓子店나폴레옹 과점」のパンを大学路で「Bakery Napoleon」

大学路グルメシリーズ第三弾。劇場周辺で、かつ旅行にきたからには食べておきたいグルメ(?)を紹介するこのコーナー。その店もう知ってるよ!というお店ばかりやもしれませんが。劇場に近い、という観点からはここをおすすめせねばなりますまい。ナポレオン菓子店大学路店でございます。

※2019年4月現在閉店しております・・!

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(二階のイートインスペースがCoCo壱番屋になってしまった・・)

ドリームアートセンターや東崇アートセンターなどでの観劇計画がある場合、ここでパンを購入すると動線に無駄がありません。ちょっと時間があるときはイートイン。

韓国パンのDNA

さて、1968年創業のナポレオン菓子店나폴레옹 과점はソウル3大パン屋の1つとして名をとどろかせております。残りの二つは、江南のキムヨンモ菓子店、弘大のリッチモンド菓子店とされる(※最近弘大から城山洞に移動?)。時にナポレオン製菓店、ナポレオンパン屋などとよばれ、微妙にどれが正しいのかよくわからない・・なナポレオン菓子店。菓子店が正式らしい。製菓店だと思ってた。何となく。

キムヨンモ菓子店やリッチモンド菓子店の職人たちを育てたのは実はこのお店。そういう意味で、ソウルのパン屋は実はナポレオン帝国である、とさえいえるのです。というのも、かつてナポレオン製菓のオーナーは、店の職人たちのレベルを上げるため、フランスや日本に彼らをおしみなく(かどうかはわからないが)留学させたそうな。それは、韓国で留学それ自体が一般的でなかった1970年代から80年代のこと。パンのための留学など、さらに珍しいことだったのです。パティシエという言葉をかなり早いころから使用しはじめたが、当時の韓国の人々にはパティシエが何を意味するかとんとわからなかった、というエピソードがあるほどです。

しかも、ナポレオン製菓のオーナーは、自身がパン職人ではなかったこともあり、パンのレシピを職人たちに共有させた。一子相伝ではなく、そのノウハウを共有することを選んだパン屋。そのレシピは、いまや韓国の大手チェーンのパン屋のレシピにまで広がっているのであった。まさに韓国パンのDNAを作り上げたのが、ナポレオン菓子店なのでございます。昔は高いパン屋だ!とおもっておりましたが、ソウルの物価が爆上げされた昨今、むしろお手頃感すら感じるではございませんか。え、こんなに安かったっけ、とさえ思うお手頃感。

しかし、ですよ。レシピを共有しているにもかかわらず、店によって微妙に味が違う気がするこのお店。なぜレシピどおりつくらないのだ韓国のパン職人のたちよ!

いちばん間違いないのは本店なのですが、漢城大入口は恵化から微妙に遠い(といっても地下鉄で1駅の距離なんですが)。観劇ついで、となると心理的に遠いのです。そんな時ありがたいのが「大学路店」。一時期工事中だったため「ついになくなってしまうのか!」と恐れていたのですが、イートインスペース縮小という残念改革後、無事営業を再開してくれておりました。とりあえずよかった・・。とりあえず、そんなに劇的に味もちがわない(気がする)。

韓国ドラマ的な展開も

 さて、ここまでに紹介したナポレオン菓子店のヒストリーは、なんだか「(韓国版の)プロジェクトX」になりそうなストーリーでございました。しかしここは韓国。韓国ドラマ的展開もナポレオン菓子店には期待したい。そしてその期待にきちんと応えてくれるのがさすが「ソウル三大パン屋」の一つ(意味不明)。

かつて韓国が貧しかったころ。しかし成長を続ける経済に希望を抱く人々がたくさんいたあのころ。オーナーは職人を育て、ナポレオン菓子店を、そしてソウルのパン文化を育てた。やがて韓国の社会は成熟し、一人当たりGNPも先進国並みを達成した。オーナーは年老いた。そして・・・おこるのが「跡目相続争い(かどうかわからないが)」なのです!おおー。韓国ドラマの王道ですね。

1990年代半ばごろからナポレオン菓子店は相続人間での分家が進み、城北本店を中心とする勢力、狎鴎亭を中心とする勢力、蚕室を中心とする勢力へと分断されていきます。それぞれの勢力は異なるレシピを保有するものとみられ、同じナポレオン菓子店をなのっていても、ことなるパンが製造されている。しかも勢力を超えてポイント交換はできない冷戦体制。それを韓国のパン好きが図にしたのが以下(すごいな・・)。

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(ナムWiki나폴레옹과자점より引用)

 それぞれの勢力下で得意とするレシピが異なるので、自分がもっとも愛するケーキやパンがどの勢力によって持ち去られたのかを確かめるべきなのだそうじゃ。というわけで、大学路のナポレオン菓子店を第一歩として、広大なナポレオン帝国レシピ探しの旅に出てみるのも、また韓国グルメの楽しみ方の一つなのかもしれない。

ちなみに、大学路店ではカットケーキを頼むと飲み物が2000ウオン安くなります。アメリカンが4000ウオンなので、セットがお得!

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行き方

地下鉄4号線恵化(ヘファ)駅、1番出口を出て右にまがり、道なりに「ドリームアートセンター」を目指して進むと、左側にあります。