韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル「あの日々그날들」日本公演決定-ところで、キム・グァンソクって誰?と言う人と一緒に予習!

※그날들の日本公演はお流れになったのか、実現しませんでした(2019年3月現在)。引用元の記事もなくなっております(http://yamstage.com/archives/4457)。残念!しかし韓国では、2019年2月22日~5月6日までブルースクェアにて上演中です。

 

あっという間に気づけばもう10月。さらに言えば1週目が終わろうとしております。みなさまいかがお過ごしでしょうか。ちょっと仕事が忙しすぎて時間感覚が失われておりました。気が付けば「ドリアングレイ」のOSTが発売されたり、「あの日々그날들」の日本公演が報じられたりしておるではありませんか。「あの日々그날들」の今年度キャスト版OSTも発売されたようですし、OST祭りですね。うれしいけれど、お財布には優しくない「この日々」。

さて、今年度の「あの日々그날들」、(ずいぶん前に)見てきましたがその感想は後日ということにして(!)。今回はこのミュージカルを紹介するときに、かならず言及される「故キム・グァンソク」について予習(?)してみたいと思います。

ミュージカル「あの日々그날들」はジュークボックスミュージカル

ソテジ×ミュージカル「ペスト」のように、韓国の創作ミュージカルである「あの日々」は韓国のミュージシャン、キム・グァンソクのジュークボックスミュージカル。ただし、ソテジが1990年代・現在30-40代、かつて新世代と呼ばれた人たちの神だったとしたら、キム・グァンソクはその少し上、いわゆる386世代の神(※386世代とは、日本でいうところの「団塊世代」とか「ゆとり世代」みたいな用語で、1960年代に生まれ(軍事政権の始まりと共に生まれ)、1980年代に学生時代を過ごし(そして民主化運動をして)、現在30代の世代という意味。1990年代にできた言葉なので、当時彼らは30代でした)。ソテジがロックを引っ提げて登場したのなら、キム・グァンソクはフォーク。歌う詩人と呼ばれ、1996年に謎の自死を選んだという韓国歌謡界の「伝説」なのです。

彼の死に対して、「共同警備区域JSA」や「オールド・ボーイ」でも有名な映画監督パク・チャヌクが「私たちは彼がいたからこそ、80年代を耐えられたのかもしれない」と発言したこともあって、伝説度はアップするしかない。「JSA」でも彼の曲「二等兵からの手紙」が使用されておりました。

www.youtube.com

ミュージカルタイトルの「あの日々」も、彼の曲名。1996年に発売された「歌の物語」というアルバムに収録されています。さらに言えば、2012年から始まり、韓国で各世代のノスタルジックな気分を刺激しまくって大ヒットを飛ばしたドラマ「応答せよ」シリーズの第二弾「応答せよ1994」では、最終話の回想シーンで「あの日々」が流れ、この歌をきいたおじさん・おばさんたちは青春の日々を思い出して涙をながしたといわれておりまする。

応答せよ1994 DVD-BOX1

応答せよ1994 DVD-BOX1

 

ジュークボックスミュージカルは他にも作られた?

さて、2016年はキム・グァンソクの20周忌ということで様々なイベントがなされ、ミュージカル「あの日々」も再演とあいなったわけでございますが。実はこれだけの大ミュージシャン、韓国中年層の心のふるさとなわけですから、ほかにもミュージカルにしようという目論見は多々あったわけでございまして。特に、2013年のキム・グァンソク生誕50周年にたくさんのミュージカル作品が発表されました。あのジュンスも出演した「ディッセンバー終わらない夏(디셈버:끝나지 않은 노래)」、「風が吹いてくる場所(바람이 불어오는 곳)」。そして「あの日々」だったわけです。さらに没後20年の今年は、あらたに「あの夏、動物園(그 여름 동물원)」も作られました。

「風が~」はキム・グァンソクの遺族とファンクラブが後援して作られ、コンサート風のつくりなのだとか。彼の歌をメインに見たい観客にはとても高く評価されている。他方「ディッセンバー」は最も規模の大きいミュージカルとして作られ、未発表曲なども盛り込まれたにもかかわらず、最も酷評をうけたそうな。

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(Next Daily2013年12月24日「キム・ジュンス大変な努力、ミュージカル「ディッセンバー」終わらない歌」の記事も、ストーリーがごちゃごちゃしすぎてるよ!とお怒り)

で、「あの日々」はどうかと言うと、キム・グァンソクの音楽を二曲以上の曲を混合使用するなどのミュージカル風アレンジ度が高い作品であるため、原曲のイメージとは異なる効果をもとめて曲が使用されたことをどうとらえるか、で評価が分かれるようす。また、ややストーリーラインが貧弱との評価もあったようですが、「ディッセンバー」よりはナンボかましだよな!というところで落ち着いたようでした(いいのか?)。

曲への思い入れとミュージカルの物語

 このように見てみると、ジュークボックスミュージカル、中でも国内でヒットを飛ばしたミュージシャンのそれ、というのはなかなか難しいものを含みこんでおるということがわかります。観客はミュージカルのストーリーと音楽を楽しむ以外に、原曲のイメージがどのように引用されたり解釈されているのか、ということにかなり関心をむけるわけですから。原曲に思い入れが強く、自分の体験を重ねてしまうような聴取者が多いミュージシャンであればあるほど、創作難易度は高い。日本だと、尾崎豊のジュークボックスミュージカルとか絶対作りにくかろう。しかしそれに近いことをやっている韓国ミュージカル界、あらためてすごい・・と思わずにはいられないのでした。

さて、キム・グァンソクへの想いをそこまで共有できていない日本の観客(私)は、このミュージカルの楽しみ方や評価の方向性もやや異なっているのでしょう。「あの日々」の客席には、結構中高年(男性)が目立つのですが、きっとあの人たちの心の中には、青春が吹き荒れてるんだろうなあ。そう思うと、20年前を回想する物語は、そうしたあま酸っぱ度をドライブするのに最適なのかもしれません。