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ミュージカル「グランドホテル」RED&GREENの感想 その3-オットーの魅力にも触れておきたい

ミュージカル「グランドホテル」しつこく感想、続々編。もう一つ、書いておきたいことがありまして。ここまで伊礼&宮原男爵に注目し、語る形をとってまいりました。ですがここはひとつ、やはり。「グランドホテル」の魅力の一つである(というか個人的には一押しである)、オットーというキャラクターについて取り上げてみたい。それは、涼風真世さんがこれを演じられた時代から、疑う余地のない事実なのであります。たぶん。

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(「みんなにもシャンパンを!あの高い、、もえ、なんとか」)

二つの世界の間で

オットーというキャラクターは、死期のせまった会計士で、本来ならグランドホテルに足を踏み入れることなど一生なかったであろう一般人。その身なりから「足元をみられ」、部屋をかりられずに追い出されそうになっていたくらいです。ぶかぶかの安っぽいコートを着て、猫背でよちよちと自信なさげにロビーを歩くその姿は、まねかざる客という風情で、豪華はホテルには似つかわしくない。でもその「似つかわしくない」ようすにこそ、観客は目を引かれてしまうのであります。

彼につい目をやってしまうのはなぜか。それはおそらく、ロビーに「似つかわしくない」様子、彼の存在の不安定さにあるのではないでしょうか。そしてそれは、このキャラクターが、二つの異なる世界を行き来する人物として設定されるがゆえ強調されていく魅力だとも思えるのです。

オットーは、様々な異なる世界の間に生きています。ホテルで働く人たち(労働者)と、マネーゲームであぶくぜにを儲ける富裕層(資本家)の間を行き来するような存在。病を患っているので、生と死の境界にも立っている。今まで会計士としてまじめに一か所で同じ人と会って生きてきた「動きのない」人生をやめ、ホテルのような場所に集まる人のように、旅をして暮らす「動きつづける」人生を選択しようとしている。そしてさらに、その変化の意味を考えようとしている人なのです。オットーはまさに、「グランドホテル」という物語のすべての要素を象徴するような存在なのだといえるかもしれません。

 二人の「オットー」

さて、ミュージカル「グランドホテル」2016年版では、REDとGREENそれぞれにオットーが存在しているわけですが。REDでオットーを務めたのは成河さん。GREENでは中川晃教さんが演じられました。バージョンごとの演出違いという前提はあるにせよ、二人のオットーはREDとGREENの世界観にとってもマッチした、異なるキャラクターだったように思います。

成河さんのオットーは、REDの世界にぴったりな、純粋で生きることを楽しもうとするオットーだったな、と。きらきらした世界に魅了され、次第に自分を解放していくようなオットー。希望に満ちたラストにぴったりな雰囲気。病気に体を蝕まれていることは十分に承知しつつも「生」の側へ希望をみいだし、動きのある人生へと一歩を踏み出すキャラクターでした。

一方中川さんのオットーは、もうちょっと卑屈(な気がする)。グランドホテルで自分が完全に楽しむというよりは、こんな世界があったなんて!とむしろ今までの自分の人生を振り返り、悔しがるようなところが色濃かったのではないかと。プライジング社長に文句をいうシーンに、それは表れていたように思えます。爆発する感情、怒り。それはGREENのラストに示されるような、労働者の不満や怒りがふつふつと煮えたぎる、グランドホテルでは表面上隠されている「そちら側」の世界を、オットーが垣間見せてくれる一瞬ではなかったか、と。彼が見ているのは、グランドホテルの表と裏の両側面なのだと、はしばしに思わせてくれるオットーだった。

境界に立つオットーというキャラクターを、動きのない世界から動きのある、生の世界へと移動していく存在として表現した成河オットー・RED。境界にたちすくみつつ、時代を見つめる中川オットー・GREEN。どちらも魅力的で、だからこそ何回も彼らを見に行きたくなる作品だったんだよなーと、思ったのでございます。

ちびっこの魅力

ちなみに、男爵ズは180越えのナイスガイたちなのですが、オットーはちびっこキャラ。通常男子は背が高いほうがよろしい、とされているのがこの世の中。なので、オットーという役どころは、そもそも見栄えのするキャラとはいいがたい。

帰り際、観客席のお嬢様がたが、「この作品ってオットーが主役なの?最後に出てきたからそうなのかしら。男前な役でもないのに」とおっしゃっているの漏れ聞こえてまいりました。ざ、残念でございます。確かに、明確に男前な男爵に心奪われるのは仕方がないことでございましょう。しかし、小粒でぴりりとパンチのきいた、オットーのちびっこ力にも心ゆさぶられはしませんでしたか?と伺いたい。うーん、ちびっこ力は、男前力との対決において、苦戦していた模様です。

オットーは、全体のコンセプトを体現しつつ、それだけが目立ってはいけない役どころ。オットーがうまく演じられれば演じられるだけ、本人が目立つのではなく、全体が調和し、劇全体のパワーを高めるように効果を発揮する。これって、主役泣かせな作品ってことなのかなあ。あらためて、この役の難しさも実感したのでありました。