韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル『キング・アーサー(킹 아더 )』(2019年、韓国、初演)見て来たよ-ラストは韓国テイスト大盛りで!

アーサー王伝説を描くフランスミュージカル『キング・アーサーLA LEGENDE DU ROI ARTHUR』の韓国初演が2019年3月14日~6月2日まで忠武アートホール・大劇場にて上演中でございます。『太陽王Le Roi Soleil(2005)』だの『1789~バスティーユの恋人たち1789: Les Amants de la Bastille(2012)』だのを手掛け、宝塚花組公演『CASANOVA(2019)』で作曲を担当したフレンチミュージカルの巨匠、聞けばこの音!と腑に落ちる、ドーヴ・アチア(Dove Attia)の手掛けた仏版原作。韓国版はレプリカライセンスではなく、台本と音楽のみを持ち込むスモールライセンスでの上演ということで、アチア色を残しつつもオーケストラあり、新曲あり、ラスト違いまくりの韓国大河歴史劇を見ているかのようなアーサー王物語でございました。見て来たキャストはこちら!

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アーサー:チャン・スンジョ

グネヴィア:カン・ミヨン

ランスロット:チャン・ジフ

モーガン:パク・ヘナ

メレアガン(メリアグランス):カン・ホンソク

マーリン:チ・ヘグン

アーサー王の成長物語

本作品は、魔法使いマーリンが、アーサーがエクスカリバーを手にし王位につくことを助けるシーンから始まります。マーリンはアーサーの実の父であるウーサー王の恋(横恋慕)を助け、不義の子としてアーサーの母に彼を生ませたことの罪を償うべく、アーサーを導くのでした。しかしこの時、エクスカリバーに試される資格を得たにもかかわらず、剣を抜くことができず王の座を得られなかったメレアガンは、アーサーに復讐を誓います。この登場時のアーサーは、育ての親の実子である「兄」に剣術大会用の剣を用意してあげるため、そこらへんをうろうろしているお呑気な子ども。友達のアイドルオーディションについて来たら自分がデビューしちゃった、てへぺろ、な展開でエクスカリバーを手にしてしまうのです(まあ、このキャストなら許せる気がする)。ひゃっほー!とばかりに、重みのない若者としてエクスカリバーを掲げるアーサーは、まだ自分のことで手一杯。この後も出陣した先でグネヴィアに一目ぼれして浮かれたち、マーリンの忠告にも耳を向けずにラブラブモードに入ってしまう様子は、ややバカ殿の香りが漂ってくる。とはいえ、彼が潜在的に人を信じる優れた人物である、というツボはおさえられておりまして。たとえば、グネヴィア(の国)を助ける戦いにおいて、アーサーはメレアガンと戦い、彼を打ち負かしたあとその力量をたたえて自らの騎士叙任を頼んだりもするのです(KYなだけ?)。ともあれ、本編を通じて、衣装のアップグレードだけでなく(出て来た時は、あれ、着替える時間なかったの?と思わずにはいられない普段着感)その内面が深みを増し、「王」としての自覚が芽生えていく様子が丁寧に描かれます。今回韓国版では、「再び立ちあがろう(다시 일어나리라)」と「新たなるはじまり(새로운 시작)」のリプライズが付け加えられているそうなのですが、劇中「再び立ち上がろう」がリプライズされることで、アーサーの視野が広がっていく様子、成長を感じられるようなつながりが生み出されていたように思いました。また、「約束して(약속해)」はアーサーとグネヴィア、ランスロットで歌うすれ違い不倫ソング(?)なのですが、この見せ場感を減じ円卓の騎士とアーサーにフォーカスする演出も重なって「アーサー押し」感が半端ないといえましょう。

www.youtube.com(「再び立ちあがろう(다시 일어나리라)」(ハン・チサン))

www.youtube.com(「新たなるはじまり(새로운 시작)」(キム・チャノ))

www.youtube.com(「約束して(약속해)」(チャン・スンジョ、イム・ジョンヒ、ニエル(TEENTOP))

異なる結末、二つ(ネタバレあり)

さて、今回の韓国版ではアーサーとモーガンの関係と、ランスロットとグネヴィアの最後の顛末に、フランス版から大きな変更が加えられておりました。(ネタバレを避けたい人はご注意ください)。

まず結論からお話させていただきますと、ランスロットは死にます。えええええっ!死ぬんかーい!と思われた方も多いはず(関西弁ではなかったかもしれませんが)。そう、彼は、グネヴィアを助けに行きあとからやってきたアーサーの戦いを助太刀したあげく、深手を負ってぽっくりあっけなくグネヴィアの腕の中で息を引き取るのでございます。円卓の騎士は永遠に安泰ですな!サークル・クラッシャーここに滅びたり。

さて、もう一つの相違点についてもふれておきましょう。アーサーとモーガンは異父姉弟です。マーリンの魔法で父に化けたウーサー王に凌辱され、その子ども(アーサー)を身ごもってしまった母の恐怖と悲しみを想い、幸せな両親との生活を奪われたことを恨むモーガンは、その呪詛をアーサーに向けています。彼にも母の苦しみを味合わせるため、モーガンはグネヴィアに化けてアーサーと交わりその子を身に宿します。子の名はモルドレッド、長じてアーサーを殺す者となるだろうとの呪いをかけるのでした。・・ここですよ、ここ。韓国において血のつながり、親の子に対する情を、近親婚と復讐の道具としてのみ放置しておくわけにはいかなかったのでしょう。アーサーは、モーガンの腹に宿る子に子守歌を歌ってやります(チャン・スンジョのパパ力も垣間見える)。そして、その子供が呪詛に満ちた復讐のためだけの存在ではなくなるように、モーガンが母を想うようにその子がモーガンを母と慕うように、と、アーサーは祈るようにモーガンに請うのです。・・・モーガンでなくてもビビるわ!いきなり!と、衝撃の余韻に浸る間もなく、モーガンは複雑でありながらも穏やかな表情で去り(!)、王妃グネヴィアは処刑ではなく追放されることが決定するのでした。そして、アーサーは、今後すべての選択は自らのためではなく、民のためになされるであろう、と、王としての自覚を新たにし、騎士たちを鼓舞するのでございました。いやあもう最後、なんだか韓国の歴史ドラマの王様みたいになってますよ!と、ツッコミどころも満載なのですが。ドーヴ・アチアのおフレンチな楽曲と、韓国の情にあふれる史劇が見事にマッチングし、ランスロット死んだけどまあいっか!と吹っ切れること間違いなしでございます。あー、韓国版OST出してほしい!