韓国ミュージカル☆ライフ

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韓国ミュージカル『新興武官学校(신흥무관학교)』(2019年、韓国、再演)観覧記-1幕と2幕のギャップが大きすぎやしませんか

韓国陸軍が主管する、いわゆる軍ミュージカル(もちろん創作ミュージカル)『新興武官学校(신흥무관학교)』が、3・1独立運動および大韓民国臨時政府樹立100周年記念で帰ってきた!2019年2月27日~4月21日まで、狎鴎亭の光臨アートセンターBBCHホールにて上演中でございます。公演制作を請け負うのは、人気作『ヘドウィグ』や、最近では『ジェントルマンズ・ガイド』を上演するShownoteという本格派。作・作詞はイ・フィジュン(ミュージカル『我が心のオルガン』等)さん。音楽は『トレースU』や『ママ・ドント・クライ(通称マドンク)』のパク・ジョンアさん。確かに「あ、ここ『マドンク』っポイ!」と思う部分がございました。そして、初演ではワンキャストだったのですが。今回、軍役にある綺羅星のようなメンバーを、無尽蔵に湧き出るがごとくに使い放題キャスティングし放題という驚異的好条件の下、主演メンバーをダブルキャストにしてきましたよ韓国陸軍さん!私の見て来たキャストはこちら。

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ドンギュ:チ・チャンウク

パルド:カン・ハヌル

チ・チョンチョン(池青天):キム・ソンギュ(INFINITE)

ナパル(ラッパ):ホン・ソヨン

ヘラン:イム・チャンミン

ネタバレなあらすじ

初演時からすでに多くの記事が出ているかと思いますが、一応あらすじを書き残しておきます。今回は観劇後に殴り書きメモすら取らなかったので、前後関係はかなりアヤシイです。あくまで参考程度に!

物語は、韓国統監寺内正毅内閣総理大臣を務めていた李完用日韓併合に関する条約(このミュージカルでは庚戌国辱경술국치という表現がもちいられています)に調印するところから始まります。儒学者たちはこれに死をもって抗議しますが、聞き入れられません。この事件を目撃した、儒学者の息子であるドンギュは父のように生きることに拒否感を感じるのでした。他方、これを契機とし李会栄、李相龍らは満州へ亡命し独立運動を本格化させることを目指します。この時、李会栄の奴婢として働いていたパルドも、自分も独立運動を目指し彼についていくことを決意するのでした。また、独立運動を戦う人々とともにあったナパルは、銃をもつよりもラッパ吹きになることを薦められます。ラッパを吹き、倒れた兵士も生き返らせるような名手になれ。その言葉を胸に、ナパルはラッパの練習をするのでした。さらにもう一人のメインキャスト、チ・チョンチョンは日本の陸軍士官学校で学んでいました。しかし彼も日本陸軍の軍人ではなく、独立運動家として活動すべく、日々軍の機密資料を探し求め、準備をすすめていました。軍人名簿、スパイ名簿等を探す日々。そこで志を同じくするキム・ギョンチョンと出会い、ふたりはともに満州を目指すのでした。

満州の地に建てられた新興武官学校にはパルドやナパル、そしてはやり独立運動に身を投じる決心をしたドンギュ、馬賊に家族を殺されたというヘランが集ってきました。教官のもと兵士としての技術を磨く若者たち。パルドはいつも何かを書いているドンギュが気になります。ドンギュは詩を書いているのだと言います。うらやましがるパルドに、ドンギュは文字を教えてやると約束するのでした(ここら辺が意外にもお笑い表現・・)。学校生活を通じ、友情を深めていくナパル・ヘラン・ドンギュ・パルド。李会栄先生が襲撃された時には皆で力を合わせて反撃も。ナパルとヘラン、ドンギュとパルドは金蘭譜を交換し、互いの命をかけた友情を誓うのでした。しかしやがて、彼らの戦いの時が近づいてきます。教官の一人は、独立を叫び敵のもとに消えていきました。つぎはパルドの番だ、だがそれまでに独立が達成していることを祈ると言い残して・・。教官たちが独立運動を進める中、子どもたちばかりの武官学校が日本軍に加担する馬賊に襲撃され、学生たちが拉致されます。馬賊の娘など信用できない、武官学校に残った学生たちに白い眼を向けられたヘランは、馬賊のもとへ、仲間を助けるために乗り込んでいきます。懸命に戦うなか、しかし彼女は命を落としてしまうのでした。そもそも、なぜ馬賊は武官学校の内情を知っていたのか?疑問が広がります。――情報を流していたのはドンギュでした。彼は政府に母親を人質に取られスパイ活動をさせられていたのです。彼が首に巻く赤いスカーフは、その証。そしてまた、このスカーフをしているものを撃退してはいけないともいわれていたのでした。しかし、李会栄を襲撃したスカーフの男たちを打ち負かしてしまったドンギュは、母の安全を盾にますます脅されるのでした。そんな中、パルドは新興武官学校に到着したチ・チョンチョンらの持参したスパイ名簿にドンギュの名前を見つけてしまいます。念のためそのページを破っておきましたが、いてもたってもおられず、パルドはドンギュに銃口を向けつつ直接その真意を問いただすのでした。スパイであることを認めるドンギュ。パルドは引き金を引き――。その後、パルドはついに独立運動に身を投じるために京城に向かうことになりました。今では銃さばきも見事です。最後のお別れをドンギュに言いたかった、言ってほしかった。空を見上げパルドは涙するのでした。そして見事に敵を倒し、自らも命を絶ったのでした。他方、ドンギュは生きていました。あの時パルドが向けた銃口は天にむけて弾かれたのです。ドンギュはスパイの功績をねぎらわれる中、パルドが花火が好きだと言っていたことを思い出します。そして、決意したように赤いスカーフを捨て去り、花火をしようとつぶやきながら、抱えていた爆弾を爆発させるのでした。パルドが武官学校のいつもの庭で待ってくれている、笑いかけてくれる、その姿を想像しながら、ドンギュは周囲の日本兵たちもろともに倒れるのでした。彼らが次々と戦闘に散ってゆく中、各地で独立運動を行っていた人々が集結し、戦いは激しさを増していきます。ナパルは戦場で見事にラッパを吹き、兵士たちを力づけました。彼女もまた銃に倒れる中、最後に思い浮かべたのはヘランでした・・。「ヘラン見てる?オンニ、カッコいいだろ?」。――多くの命が失われていきます。しかし、チ・チョンチョンら運動家は勇ましく戦います。大韓独立の万歳を叫ぶその日まで、あきらめずに、その不死の魂を歌い上げて―――で、幕。だったと思う。

1幕は学園ものだった!

「失われた祖国、国を取り戻すためにすべてをささげる青春の物語」というキャッチコピーを見ると、独立運動に身を投じた若者を描く、非常にシリアスな物語を想像するかと存じます。しかも見どころとして「『我らは記録を残さない。我らは名を残さない(劇中の台詞)』―混乱と激動の時代を生きた『ひとびと』にフォーカスする創作ミュージカル『新興武官学校』」などと書かれているので、その気持ちはさらに強まるのではありますまいか。抗日を叫ぶ「ひとびと」をどんな立場でみればいいのだろうか、そんな迷いが生じるかたもいらっしゃるかもしれません。上記のあらすじを読むと、ますますそんな気持ちになるでしょう。が、そんな皆様にこそお伝えしたい。その気持ち、一瞬でも日韓の過去と未来に心を寄せたのならもう十分、あとは楽しめばいいのです!と。というのも、特に1幕は「本当に独立運動をしていた人はこれで納得されているのだろうか・・」と勝手に心配してしまうくらいにエンターテインメント。というか、独立運動あんまり関係ないレベル。新興武官学校の「学校」部分に重点が置かれ、ほのぼの学園生活がお笑い(しかも超ベタな)とともに描かれていきます。そしていきなりのシリアス独立運動と主人公の苦悩モードが展開するという怒涛の急転直下。一幕と二幕の差が大きすぎて「一粒で二度おいしいって思うべき??」と戸惑ってしまいました。まさに制作側も、エンタメでいいんだよ、楽しみなよ!という方針とみた。むしろこの作品を見て観客が思い出すべきは、本物のプロパガンダとは心底楽しいものであるということかもしれません。笑って泣いって、カッコよさに心躍らされる本作品、めちゃめちゃ成功しているってことなのでは?と感じるやもしれません。

最終目的地は「中国」

さてミュージカル『新興武官学校』は国防部と陸軍本部が企画する、いわゆる「軍ミュージカル」。この始まりは、2008年の建国60周年を理由に作られた『MINE-地雷』で、地雷爆発事故で足を失った兵士の実話を基にした作品であったそうなのですが。その後、6.25(朝鮮戦争)の60周年ということで制作された『生命の航海』(2010年)、6.25停戦60周年に作られた『プロミス』(2013年)、そして建軍70周年の2018年に『新興武官学校』が作られたという歴史(?)をもっております。これまでの作品が、あまりに「目的的でありすぎたために平板であったがゆえに、継続的なレパートリーとはなりえなかった(내년 3·1운동 100년 … 뮤지컬로 보는 신흥무관학교)」と評されているのに対し、今回の『新興武官学校』は「再演!」を果たしたのでありました。一応、名目は3・1独立運動100周年(やはりこういうのがないと、再演はありえないのだろうか・・謎)。ともあれ、今回の企画をした軍幹部は、中国・上海公演も推進する!とおっしゃっているようで。確かに、外国人らしき観客が非常に目立った(『ジキル&ハイド』以上に!)本公演、かなりニーズもありそうです。せっかくなら上海と言わず、かつて新興武官学校があったとされる旧満州、現在の中国吉林省あたりも候補に挙げる・・のは無理なんでしょうかね。