韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル「ポーの一族」(宝塚花組版・2018年)見て来たよーこの世のものとは思えぬ美しさ

少女マンガの金字塔、マンガ史の伝説、悲しきバンパネラの美しき物語。「ポーの一族」が華麗なるミュージカルとなって、宝塚大劇場にて上演中でございます(宝塚大劇場2018年1月1日~2月5日、東京宝塚劇場2月16日~3月25日)。

久々の記事が「ポー」は「ポー」でも、韓国ミュージカル「エドガー・アラン・ポー」ではなく宝塚の「ポーの一族」か!とお思いの方もいらっしゃるやもしれませんが。しかしこちらも書かずにはおられない圧倒的魅力。超チケット難の公演ではございますが、強力にプッシュしたい。あらゆる手を尽くしてみておくべき舞台といえましょう。もう、言い切っておきます。いきなり今年の個人的見てよかった公演大賞候補作!(いいのか?)。

エドガー・ポーツネル:明日海りお

シーラ・ポーツネル男爵夫人:仙名彩世

アラン・トワイライト:柚香光

明日海りおさんのエドガーに魂を持ってかれるよ!

すでに新聞記事等で取り上げられていた、トップスター明日海りおさんのエドガー・シンクロ率ですが。「動いたらどうなの?」と気をもんでいた原作ファンは多いはず。しかし心配めされるな。動いたらもっとすごいんです!と叫びたくなるすばらしさ。原作をご存じの方には自明のことなので、アレですが。彼は少年のまま時をとめてしまった吸血鬼。体が成長しないまま内面のみが老成し、あるいみ神がかっている。そのため、立ち姿、瞳にうかぶ憂いの色、そのすべてが「この世のものにあらず」オーラで満たされていなければならない。もうこの時点で生身の人間には無理な役といえましょう。

しかし二幕後半、エドガーがあらためて自らの運命を受け入れ、アランを一族に引き入れようとする時。そのたたずまいは間違いなく「この世のもの」ではありませんでした。もちろん、全編を通して明日海さんにエドガーの魂が降臨してるのかと思わされる「入り込み度」で、ん?あそこにいるのはなに?神?妖精?あ、バンパネラね、という感じだったのですが。アランとエドガーのツーショット、その浮遊感がスパークした瞬間、たぶん大劇場にいた2550人(席数)は異次元をみたと思われます。まじ戻ってこれないかとおもった。あぶないあぶない。

宝塚ワールドの新展開?

さて、「ポーの一族」の脚本・演出を担当されたのは小池修一郎先生。この作品自体、先生が宝塚入団前から上演してみたいと思っていたという前口上がつく、思い入れのかたまり。しかし、プログラムブックの言葉でもふれられていたように、「ポーの一族」は成長しない少年主人公、バンパネラというダークな設定を含みこんだ物語。そしてそれこそが原作の魅力の核にある。こうした原作の性格は「美しい男性と女性の愛の物語」を描くことをその世界の中心に据える宝塚の世界観とすり合わせるのがなかなかに困難で、すぐに上演にこぎつけるということはかなわなかったのだそう。

その後、死を描く「エリザベート」、少年・青年マンガ原作の作品などが上演されはじめ、宝塚の世界観は拡張していきました。この広がりを経てこそ「ポーの一族」も可能になった、ということらしいのですが。今回観劇して、その異次元感に魂をさらわれつつも、「ポーの一族」によって今後宝塚の世界はさらに広がるのではかろうか、とおもわされもしました。

というのも、今回の配役。トップ男役の明日海さんとトップ娘役の仙名さんの間には、エドガーのシーラに対するほのかな憧れ、という点において恋愛的なモノがうっすらと設定されてはおりますが、それは全く中心にはない。仙名さん演じるシーラは、最愛の夫フランクとの強い絆で結ばれている。この二人をめぐる物語のラストシーンは、胸が締め付けられるおもいにかられます。また、エドガーの妹メリー・ベルとアランの淡い恋なども登場するのですが、やはりこれも物語における主たる関係性ではない。

そう、異性愛ではなく、この物語においてもっとも重要な関係は、人々から迫害される「一族」の絆と、エドガーとアランの運命を共にする誓いにほかならない。異性愛・恋愛の物語がトップのペアによって演じられないというこの大胆さ。最後のシーンを飾るのも、ベルばらの時にアンドレとオスカルを乗せたクレーン(?)に乗るのも、異性愛に設定されたカップルではないのです!(では誰がって?それはもちろん!)

不勉強故に、これまでにもこうした「型」が宝塚において描かれたことがあったのかどうかはわからないのですが。これって、たまに話題作を見る程度の私のようなものの宝塚歌劇のイメージからすると、レアケース、という気がするのでございます。

もし、今回異性愛をこえた絆を描くことへと、宝塚歌劇が一歩踏み出したのだとすれば(いや、二三歩目なのかもしれないが)。「ポーの一族」は何重にも、伝説の作品となるに違いないのでございます。

あと、花組メンバーの美しさ、柚香光さんの殺傷力も半端ございませんので、御覚悟ください。あー、当日券並ぶしかないかなー。