ミュージカル「スウィニートッド」(2016年・韓国キャスト)鑑賞記-チョン・ミドのミセスラヴェットの魅力
ミュージカル「スウィニートッド」2016年、韓国キャスト版を見てまいりました。韓国ミュージカル界の女帝オク・チュヒョンと皇帝チョ・スンウがついにあいまみえる!という点からも話題のこの作品。2016年6月21日~10月3日まで、蚕室のシャーロッテシアターにて上演中でございます。
(舞台の上のバーバーチェアは真っ白でした。血のりも景気よく使用されていた)
この女帝と皇帝の対決にあって、私が見てきたキャストはこちら~!
ヤン・ジュンモ、チョン・ミドペア。完全逆張りでまいります。
音楽が世界を出現させる
日本版「スウィニートッド」がお芝居として楽しめたとすれば、韓国版は音楽劇としての完成をみていた、と言ってしまいたい(いいかな?)。ものすごくシンプルな舞台で「ここは曲を聞きに来るところでしてよ」というメッセージが伝わってきます。その場所や背景、小道具は、音楽によって語られることで色彩を帯び、リアリティを吹き込まれるのだからいいでしょう?という潔さ。もうちょびっと「ロンドン」な雰囲気はほしかったけどなーと、思わなくもないのですが。
とはいえ、アンサンブルが歌い上げるBallad of Sweeney Toddは圧巻。確かに、彼らが歌い上げることで、舞台上に結界が張られるかのようにスウィニートッドの世界が出現していきます。あの曲は召喚魔法か!あるいは、彼らが舞台装置なのか!と思ったのでありました。
トッドとラヴェット夫人のキャラの調和
さて、このペア。ヤン・ジュンモさんメインで見に行ったつもりが、帰りにはチョン・ミドさんのファンになっている。そんな事が多々起こりそう。とても魅力的な「ミセス・ラヴェット(韓国語版では、ラベット夫人と呼ばれます)」を見せてくださいましたチョン・ミドさん。どこかはかなげな雰囲気がただよっている顔つき・体つき。ヤン・トッドの周りをちょこまか動き回り、キュートに迫る姿がぴったり。そしてなんといっても歌が完璧なのです。あんなに不安定な音程の曲で、かつ台詞として機能させなきゃいけないという難題に、実に難なく答えてくれている。それだけでなく、その涼やかな声は、血なまぐさい内容を歌っているのに、それをコミカルに感じさせる魅力があります。単に「上手」というのとは違う、まさに音のなかに演技があるミュージカルの醍醐味。
一方、ヤン・ジュンモさんのトッドは、復讐に燃える人ではあるのですが、島流しの後遺症でどこか「こわれちゃった」人のように見えました。復讐をするのは「こわれちゃった」自分をこの世につなぎとめておくための手段なのかも、と思わされた。だからこそ、ミセス・ラベットの悪乗り半分のミートパイ戦略に乗せられ、二人で生き生きといろんな種類の(人の)パイを構想するシーンは、トッドに訪れた「救い」にも見えたのでした。
なので、二人の関係、殺人をつぎつぎと繰り返し、ミートパイをどんどん製造していく部分が残酷というよりは、どこか「こわれちゃった」人たちが作り出した楽園のように見えました(迷惑だけど)。それぞれのキャラクターがものすごく強い、というよりは、二人の調和がこの劇の雰囲気をつくりだし、また二人のキャラクターの魅力を引き出すような構図があったかな、と。
なかなかおススメです。このペア。