韓国ミュージカル☆ライフ

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速報・ミュージカル「エドガー・アラン・ポー에드거 앨런 포」を報告します!-ポーは「だめんず」だった

ミュージカル「エドガー・アラン・ポー에드거 앨런 포」の韓国初演が幕を開けました。タイトルのとおり、「モルグ街の殺人」や「黒猫」でも有名なアメリカの作家で詩人のエドガー・アラン・ポーの一代記。プレビューチケットの割引に魅せられ、さっそく公演を見てまいりました。わたくしの感想第一声としては、「ポーって、だめんずなんだな!」でございます。キャストはこちらを選択。狎鴎亭の光臨アートセンターBBCHシアターにて上演中でございます(2016年5月26日~7月24日)。

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(アンサンブルの人名がほぼ読めませんね、これでは)

ポー:マイクル・リー

グリズウォールド:ユン・ヒョンリョル

エルマイラ:キム・ジウ

ヴァージニア:オ・ジニョン

というところで。

というか、ポーとグリズウォルド以外の印象がものすごく薄い作りでした。

ものすごくざっくりしたお話としましては

プレビュー公演の際には、予測通りプログラムブックが刷り上がっておりませんでした。アイゴー。ということで、曲名すらよくわからない状況。記憶の限り、超ざっくりと物語についてお話しておきましょう。

この物語は、ポーをめぐる二つの関係性を描いております。一つは、ポーの天才ぶりや大衆の熱狂を忌々しく思うライバル、牧師であり批評家でもあるグリズウォールドの嫉妬と彼の活動に対する妨害に関するもの。ここの部分はアメリカ文学版「サリエリ」とでも言いましょうか。天才の天才たるゆえんを高める関係性といえましょう。天才の天才っぷりを表現する上で、嫉妬するライヴァルは必須アイテム。しかし、このグリズウォールド、相当やることがあくどい。ポーの作った雑誌の編集長の座をのっとったり、彼の作品の管理権をいつのまにやら奪い取ったりし、挙句の果てには「ポーはアル中で薬中で、背徳的で危ない性的趣味を持った危険な奴だ!悪魔だ!」と言いふらすというネガティブキャンペーンをぶちかまし、ポーの作品ともども闇に葬り去ろうとするのです。本気度が違うよ!存在全否定に全力を傾けますよ。

そして、もう一つはポーと彼を取り巻く女性の物語。ポーは職業作家として生きていくことを強く熱望し、それを実現しようとするのですがうまくいかなかった作家。日々超貧乏。この過程でアル中になったりして、とってもだめんず(ダメ男)要素あふれる人なのですが。下手に天才なもんだから「やるやるサギ」のだめんずとは一線を画す。だからこそ、いっそうたちが悪いともいえる。やればできる子なのにうまくできないってどういうことですか!

さて、世の中にはだめんずを支えよう、彼の才能を理解できるのは私だけと思っちゃう女性というのがいるものでして。このミュージカルにも、そういう心清らかな二人の女性が登場します。一人は若かりしポーと恋仲にあった女性、父親の反対でその仲を引き裂かれたエルマイラ。彼女とは妻の死後再会し、再び恋に落ちます。ここ、相当簡単にやけぼっくいに火がついちゃうのです。おいおい、君をあんなに信頼し耐えてくれたヴァージニア(ポーの妻)が死んでからまだ2場くらいしかたってないんじゃないかな(体感)ひどすぎやしないかね、とつっこんでしまうほどの展開。自分を信じてくれる女ならなんでもよいのか!と怒りの鉄槌を喰らわせたくなるだめんずぶりでした。

彼に振り回され、結局病気を悪化させて死んでしまう妻がヴァージニア。ポーの従妹なのですが、ポーが叔母に頼み込み彼女を娶ります。病がちであったヴァージニアに十分な医療を受けさせ、教育を受けささせると安請け合いして結婚。しかし自分を大金持ちにしてくれると豪語していた作品の原稿料は雀の涙。そこには働けど働けどわが暮らし楽にならざりな日々がまっておりました。病気が悪化するヴァージニア。ほかの仕事についてくれと頼む叔母を無視し、著作に明け暮れるポー。そんなポーを見守るヴァージニア、げほげほげほ、血を吐いて亡くなってしまいました。美人はだいたい結核。哀れヴァージニア。

俺のせいだ(確かにそうですね)と、自暴自棄になるポー。原稿もかかず飲んだくれる日々が続きます。いや、原稿書かずにいられるならヴァージニアが生きてた時にもうちょっと相手しておいてやれよ!と、ツッコミどころ満載。そんな飲んだくれなポーは、グリズウォールドに著作の権利をうばわれちゃうんですけどね。踏んだり蹴ったりでございます。

その後エルマイラに再会し、恋に落ちたポーは、彼女に励まされ再び創作の意欲を取り戻します。このくだりも超お手軽展開。さっきまであんなに絶望ブリッコしていたのに、女の一言でコロッと創作意欲復活ですか!・・しかし時すでに遅し。グリズウォールドの陰謀によって(たぶん)、ポーは死を迎えるのでした(なんかよくわからない集団に注射うたれて)。すべての現世の苦しみから解き放たれたその瞬間(エルマイラはどうなったのじゃ)。母がポーを迎えに登場、彼をいやすのでした(このシーンは作品冒頭でも登場します)。結局は母はか!という驚きはおいておきまして。・・そして彼は、自らの才能を確信し、高らかにそれを歌い上げるーーで、幕。

というような感じでした!たしか。

お話を追うより音楽を聴くかんじ?

この韓国版、もともとの版にかなり加筆したり楽曲を増やしたりして物語度をアップさせたということではありましたが。依然として、話の展開それ自体が面白いとかスリリングというには至っていない印象です。ポーとグリズウォールドの関係や、二人の女性との関係も「あるある」度が非常に高く、それぞれのエピソードがうまく絡んでいるというわけでもない。

さらに言えば、ポーの著作に関する曲や言及が比較的少なかったのではという印象も。後半は基本的に酔っぱらって、だめんずな日々なので仕方ないといえば仕方ないのですが。1幕の最初、詩を披露したり「モルグ街の殺人」が紹介されたりするあたりは、作家ポーの物語なのだな、という感じがするのですが。後半はねえ・・、ただのよっぱらいのおっさんが舞台でくだまいているだけでした。(あ、アナベル・リーが後半だったかも)。

というわけで、今回はあくまでプレビュー公演でしたので、今後もうすこしお話にメリハリが付け加えられる可能性、演出が工夫される可能性もなくはない。とはいえ、現段階では、ミステリアスなポーの死因を探る物語、という要素はほとんどないかのごとし。音楽中心で楽しむミュージカルかな、という印象。・・すでに出ているプレビュー公演の劇評も同じようなことを言いっているので、かなりみんなそう思った様子です。意見が一致したねー。

しかし異なる目線から見ると、オイシイかも

だがしかし!物語が単調でも、エピソードが十分に絡み合っていなくてもいい!このミュージカルは、グリズウォールドとポーの(愛)憎劇を楽しむのが正しい作法ではゴザイマセンコト?という淑女の皆さまには、ある程度期待に応えてくれる作品ではないか、と思えます。

この作品、グリズウォールドが語り部として舞台の全面にちょくちょく出てきまして。ポーへの熱く煮えたぎる(あるいは、うちに秘めて押さえきれない)思いを吐露するのです(いや、冷静に見れば物語を進行しているだけなのかもしれないが)。そして、このグリズウォールドというキャラクターの黒さが、平均的ミュージカルのライバル役に比して飛びぬけている、ところも重要でございましょう。君、どんだけポーを「わがものにして」「それを踏みつぶしてやりたい」と思っておるのだね・・とつぶやかざるをえないような狂気に満ちているのです。これはなんだか素敵な予感。

今回私が見たグリズウォールドはユン・ヒョンリョルさんでした。彼のグリズウォールドは、悪びれない雰囲気の中に潜む狂気と、ポーへの執着がとっても魅力的。マイクルのポーが、グリズウォールドなんかどうでもいい、と超思ってそうな天才なだけに、二人の関係は一層スリリング。グリズウォールドがかわいそうになってくるくらい、ポーにかまってもらえなかった。きっとここ、俳優さんの組み合わせ、それぞれのキャラクター設定によっては相当異なる関係に見えてくるのではとおもわれます。二人の男たちの熱い関係をめぐるなにがしかを妄想したい人には、「十分オイシイお話」であるのは間違いないでしょう。