韓国ミュージカル☆ライフ

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ミュージカル「ソピョンジェ(西便制・서편제)」(2017年版)観覧後記(1)-今度は何冠?

韓国創作ミュージカル「西便制(ソピョンジェ・서편제」が2017年8月30日に開幕、11月5日まで、狎鴎亭BBCHシアターにて上演中です。ユン・イルサン作曲・チョ・グァンファ作・イ・ジナ演出、キム・ムンジョン音楽監督という「国内代表ミュージカル創作陣が意気投合して上梓した作品」とのこと(聯合ニュース2017年6月5日「ミュージカル西便制8月開幕、イジャラン、チャジヨンなど出演」より)。実際、2010年の初演以降、再演される度にその年のミュージカル賞を総なめするほどに評価の高い本作品。その2017年度版は、初演メンバーであるイ・ジャラン、チャ・ジヨンに国立昌劇団所属のイ・ソヨンが合流して、もう誰を選んでも後悔はない!というキャスティング。私が見て来たメンバーはこちら。

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ソンファ:イ・ジャラン

ドンホ:キム・ジェボム

ユボン:イ・ジョンヨル

予習はどのくらい必要か?

さて、ミュージカル版「西便制」はイ・ジナ演出。時間が空間上で交錯するあのタイプがわんさか用いられておりまする(イ・ジナあるある)。物語は、年老いたドンホが探し求めていたあのひとに会いに行く、というシーンからはじまり、そこに子どものころのドンホとソンファが登場。時代が舞台上でまじりあい、現代と過去のいくつかの地点を行きかいつつお話が始まっていくのです。が、ご安心を。ここでお話が分からなくなるのでは!と一瞬心配される方もいらっしゃるかもしれませんが。ここから起こることはほぼインターパークグローバル、ミュージカル「西便制」ページのあらすじ説明内の出来事にすぎません!

「世の中は犠牲だと言い、彼女は人生だと言った」幼いソンファは異母弟のドンホと一緒に、真のパンソリ唱者になろうとする父ユボンに連れられあちこちを旅する。ソリ(音、歌)の道を歩みながら、互いに心を通わせるソンファとドンホ。だがドンホは父ユボンのソリが母親を死に追いやったと考えて父を憎むようになり、結局は自身のソリを追い求めて彼らのもとを去る。ソンファは父のそばに残ってソリを完成させようとするが、去っていったドンホに会いたくて修行に集中できない。そんな彼女のソリのため、ユボンはソンファの視力を奪う。そして50年後、それぞれのソリ人生を歩んでいたソンファとドンホは再会し…。Interpark |

以下、ややネタバレ注意です。

もしポイントがあるとすれば、ドンホと父の葛藤の原因であり、しかしソンファと父、父とドンホの母をつなぐものは「伝統的なソリの追求」という芸人の業のようなものだという点。ドンホは自分を失わせ破壊してしまうような、しかも時代から取り残され忘れ去られようとしている「伝統的なソリ」を憎んでいます。しかし、最後に気づくのは・・・その伝統的なソリこそが、もっとも自分やソンファを解放し、自分たちの存在を肯定し、お互いを深く認識させる土台だということなのです。この、ソリをめぐる葛藤・後悔・和解をめぐるシーンが、すべてソリクン(歌い手)の声で強調されていく本作品。まさに、歌・声が命なのですが・・。

 

(というわけで、長くなりそうなので、続く!)

韓国ミュージカル業界の困難さ-アジアブリッジコンテンツをめぐる出来事によせて

2017年秋に再演が予定されていたにもかかわらず、その後なんの告知も出ないことに気をもまれていたかたも多いであろう、韓国オリジナル創作ミュージカル「ゴーン・トゥモロー」。この作品の企画会社でもあり、キム・スロプロジェクトなどを手掛けてきた大学路ミュージカルの雄、アジアブリッジコンテンツが、会社更生法の適用をうけたことが数日前に話題になりました。

例えば以下にあげたイーデイリー2017年8月18日記事、「キム・スロプロジェクト制作「アジアブリッジ」更生承認、俳優未払い賃金どうなる」では、大学路演劇界の恒常的な問題点も指摘されており、自転車操業的な資金回収方法や、賃金後払い制度、労働条件のあいまいさなど、その深刻さがうかがえます。アジアブリッジコンテンツは、急速に事業を拡大したこともあり、昨年(「ゴーン・トゥモロー」なども含めて)からスタッフや俳優さんたちへの賃金未払い問題がささやかれておりましたが、それをだましだましやり過ごした結果の90億ウオンの負債だったようなのです。

www.edaily.co.krとはいえ、この記事の段階では、保有作品の著作権の海外活用やエンターテインメント活用などによって更生を図る計画がなされてもいました。アジアブリッジコンテンツ(略称アプコン)が保有する作品群は大学路でも人気の演目が多く、実際その可能性は低くないと思ったファンもたくさんいたとおもわれます。

しかし、追い打ちをかけるような事件の速報がありました。以下にあげた中央日報2017年8月21日記事「「大学路ミダスの手」チェ・ジン代表息絶えているのを発見」。

news.joins.com21日の18時ごろ、アジアブリッジの代表が、マンションの駐車場でなくなっているのを発見されたとの報道でした。SNSで遺書が送られていたことから、自殺とみられており、各界に衝撃がはしっています。冥福を祈ることしかできないのですが・・・。

韓国のミュージカル業界は、ライセンスの海外輸出や中国公演の実施など一見好調にみえはしても、市場が狭く様々な問題を抱えています。「二都物語」の突然の取りやめや企画会社の倒産をはじめとし、昨年では「ロッキー」の中止、今年に入ってからの「ロミオとジュリエット」の中断など、公演自体が立ち行かない可能性を常に秘めている。こうした出来事ができるだけ起こらないよう。いちミュージカルファンにはなにができるのか、考えずにはいられない出来事でした。

――ザ・ブリッジ(大学路でアジアブリッジコンテンツが経営していたカフェ)でよく見かけた方であっただけに、衝撃です。心からご冥福をお祈りします。

ミュージカル「ソピョンジェ(西便制서편제)」予習-名作映画が無料で見られるよ!

ミュージカル「ソピョンジェ(西便制서편제)」(2017年版)がもうすぐ開幕。2017年8月30日から11月5日まで、狎鴎亭のBBCHシアターにて上演予定の本作品。もちろん原作は超有名な1993年公開の韓国映画西便制서편제 Sopyonje 」でございます。いやまあ正確に言うと、映画の原作は李清俊(イ・チョンジュン)の小説「남도 사람 (南道の人)」の西便制編と音の光編なのでございますが。ミュージカルのストーリーは、基本映画編を基盤とするものとなっておりまする。

さてこの映画、公開当時の評判たるやすさまじく、ソウルでの観客数が初めて100万人をこえた作品となりました。日本でも「風の丘を越えて」というタイトルで公開され、観客動員数が10万人を超えた初の韓国映画と言われております。「シュリ」以前に韓国映画ファンのベースをつくった一作。韓国映画史においてもかならず言及される名作なのでございます。

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 (監督は韓国が誇るイム・グォンテク)

さて、この映画未見のかたはミュージカルを見る前にみるか、後で見るか悩ましいところ。一時期アマゾンなどでDVD価格をみるとびっくり価格(高い)になっており、入手困難な状態でしたが、最近ブルーレイが販売されたようで、価格もおちついてまいりました。

 とはいえ、予習にこの値段はね・・と、TUTAYAカードを手にしたあなた。一応無料で見る方法(合法)がございますので紹介しておきましょう。そもそも、韓国には韓国映画を国家の文化遺産ととらえ、これを収集する国立機関が存在いたしまして。その名も韓国映像資料院。イム・グォンテク監督は韓国映画の巨匠ですから、もちろん資料院にその作品が収蔵されておるわけです。しかも、資料院、収蔵して保存するだけではないのがすごいところ。広く学術研究等に利用されるべく、つくったアーカイブをなんとびっくり無料で見放題なYoutubeで公開しているのです。フィルムアーカイブYoutubeチャンネルは以下。

www.youtube.com

ここの検索窓に서편제といれていただくと、ソピョンジェがリストに上がってまいります。年齢別視聴制限がついておりますので、YouTubeログインして御覧くださいませ。とはいえ問題がなくもない。使用言語はもちろん韓国語。そして字幕は韓国語・英語などが基本でして、日本語がついていないものがほとんど。というわけで、グーグル先生に韓国語字幕を翻訳していただきつつ見ることになるのですが。この翻訳が珍妙な訳になることも少なくない。見ていて不思議とストレスのない作品もあるのですが・・。ともあれ、無料でまずはちらっとみてみて、ガッツリ視聴しようと心に決めてから、TUTAYAに走られてもよろしいのではと。